中学受験ではお父様の関わり方が非常に難しいものです。最近は共働きのご家庭がかなり増えてきました。しかし、塾講師・家庭教師としての経験からすると、お母様中心となって歩んでいくご家庭がまだ多いように感じています。これについてはご家庭によってさまざまな事情がありますから、一概に是非を問うわけにはいきません。
この記事では、お母様が受験をリードしていくご家庭を想定して、お父様が関わるときに意識したいことを紹介します。
中学受験生の父親の役割とは?
中学受験でお父様にはどのような役割を担えばいいでしょうか。
受験全体に対して大切な決断をする
まず、お父様の大切な役割は、重要な判断をすることです。
・入塾テストはいつごろ受けさせるのか。
・勉強がうまく行っていないのであれば、転塾は必要か。それとも少し様子を見るのか。
・家庭教師は必要か。必要なのであれば、どのような人物を選ぶべきか。
・第一志望校はどうするべきか。
・プランAだけでなくプランBはどうするべきか。
お父様がこれらを独断ですべて決めてしまうのはよくありません。お母様とよく相談しながら決断をサポートしてください。
受験生活では、その中心にいるお母様やご本人が客観的に判断できなくなってしまうケースがあります。もちろん、これはお母様やご本人が悪いと言いたいわけではありません。受験に限らず、物事の当事者はどうしても客観的な判断ができなくなってしまいがちなので仕方ないことだと思います。
一方、お父様が少し引いたところから受験生活を見ていれば、客観的な判断ができます。家族全員の問題であるお子様の受験について、適切な判断ができるのではないかと期待できるわけです。

数字に強いお父様が、普段から仕事と同じ感覚でご本人を管理しようとするご家庭があります。しかし、筆者としてはおすすめできません。ご本人が委縮してしまい、逆に成績が伸びなくなってしまうことがあるからです。「お父さんがこわいから家で勉強したくない」と言って泣き出してしまう受験生を見たこともあります。普段は少しだけ距離を置いて俯瞰し、大切な場面で登場するのがいいでしょう。中学受験生は小学生です。会社の部下とは異なりますので注意したいですね。
ご本人へのポジティブな声かけ
お父様が受験生本人と距離をおいている場合、「客観的に見ているからこそ感じる、受験生のすごさ」があると思います。そんなときはぜひ、それをダイレクトに伝えてあげてください。
たとえばお子さんが一所懸命がんばったのにテストの成績が振るわなかったとします。こんなとき、ご本人は「あんなにがんばったのに、成績が悪かった! もう受験なんてやめる!」と感情的になってしまいがちです。
そんなとき少し距離を置いているお父様が一度ご本人の気持ちを受け止めたうえで、「それでも、あんなにがんばれたのはすごいな。このままコツコツがんばれば最終的には志望校に合格できると思うな」などの声をかけてあげれば、それだけで力になることがあります。
お父様だからこそわかる、ご本人のいいところ。こうしたところを見つけたら、ぜひダイレクトに伝えてあげてください。
ご本人と勉強で競争してみる
受験生本人と勉強で競争してみるのもいいですね。特に競争好きの男の子の場合、お父様と競うだけで楽しく学習できます。得点表をつけたり、好きなお店に外食できるなどのご褒美を用意したりして、盛り上がるように工夫するといいですね。
ご本人の得意科目でも苦手科目でも構いませんが、できれば苦手科目克服のために利用するほうがいいと思います。苦手科目を競争することで楽しく取り組めますし、接戦になることが多くゲームとしても楽しくなるでしょう。
ご本人とお父様が競争する方法については、私が編集に協力した「中学受験 最難関7校に合格の極意48」(日野原寿美 著)にも書いています。著者の日野原さんは筑駒、開成、灘に合格したご子息のお母様です。
志望校までの距離を理解させたいときや自信をつけさせたいとき、「少し早いけど過去問に取り組ませてみてもいいんじゃないかな」と思うことはありますよね。
私もそんなふうに思い、良紀が6年生になったばかりの2月に取り組ませてしまいました。このときに取り組んだのは開成と筑駒の社会科。目的は本人もうすうすは気づいている弱点をはっきりと認識させることでした。
「お父さんが社会科なら良紀に勝てるっていうから、ちょっとやっつけてみない?」と持ちかけ、主人と競争する形を取りました。
(中略)
息子と主人の真剣勝負が数回続き、「僕、いつも歴史で点が取れない。苦手かも。ちゃんとやっていないからだよね」と言い出した時点で目的達成です。過去問を解くのはいったん終わりにして、通常の勉強に戻しました。苦手意識を定着させると悪影響なので、本人が気づいたらストップです。
「上手だな」と感じるのは、「お父さんをやっつけてみる」と持ちかけていること。こうすることで競争好きなお子さんなら楽しみながら苦手分野を克服できますね。
経済的なサポート
最後はやはり経済的なサポートです。中学受験にはどうしてもお金がかかります。集団塾、個別指導、家庭教師、出願費用、模試、過去問や副教材、受験のための宿泊費など、さまざまなことに費用が必要です。「塾なし中学受験」という言葉も流行しましたが、実際にやるにはご家庭の負担が大きくなってしまいます。
中学受験をめぐるこれらの費用について、是非を問うことはここではしません。もちろん不要なものにお金をかけることはありませんが、必要なものであればなんとか受験生をサポートしていただけるようお願いいたします。
中学受験生の父親がやってはいけないことは?
中学受験生のお父様にはぜひ避けていただきたいこともあります。
受験を否定するような声かけ
まずは、受験を否定するような声かけは避けてください。たとえば、以下のような言葉です。
「勉強なんてできてもね。人間の価値は勉強で決まるわけではないんだからな」
こうした言葉をかけられると、お子さんは自分のやっていることを完全に否定されたような気持ちになってしまいます。これでは本来なら力のある子の成績も伸びていきません。
受験生のなかには、「勉強さえできればそれでいい」と考え、他者を見下すような態度を取る子もいます。もしお子さんにこうした傾向が見られるようならしっかりと諭す必要がありますが、そうでないのなら受験を否定するような声かけはやめましょう。
勉強のやる気を削ぐような声かけ
お子さんのやる気に水を差すような声かけも避けていただきたいと思います。
「A中学(第一志望校)でなくてもいいんだからな」
たとえば、このような声かけです。お父様としては、お子さんを安心させるためにこのようなことをおっしゃるのだと思いますが逆効果です。こうした言葉をかけられた受験生は多くの場合、「それじゃあ、いま自分がやっている勉強はなに? 何のためにやっているの?」と感じてしまうものです。お子さんが志望校に向けてがんばっているのであれば、「よくがんばっているな。A中学に合格しような」とダイレクトな応援の言葉をかけてあげてください。

お子さんがスランプのときなどに、「必死になってがんばったのならどこの中学校でも構わない」と声をかけることはあると思います。そんなときは、必ず「合格でも不合格でも、とにかく最後までがんばってみよう」など、お子さんがポジティブな気持ちになるような声かけをお願いします。
塾の講師や家庭教師を否定するような言葉
中学受験生のお父様は大変優秀な方が多いという特徴があります。そんなお父様から見ると、塾の講師や家庭教師が頼りなく見えることがあるようです。
ただ、お子さんの前で「あの先生は本当に大丈夫なのか」「教え方が下手だなあ」といった言葉を言うのはやめたほうが無難です。こうした言葉を聞いた受験生はどうなるでしょうか。簡単に言えば、講師の話を真面目に聞かなくなってしまうのです。そうなれば、授業がまったくの無駄になってしまいます。
塾講師や家庭教師への不満がたまってしまうのは仕方ありません。ただ、その気持ちは胸のうちにとどめてください。

客観的に見てお子さんに塾や家庭教師が合わないと感じたら、もちろんご家族で話し合って転塾や教師の変更を検討してください。
まとめ
中学受験生に関わるお父様の役割としては以下のようなことが挙げられます。
・受験全体に対して大切な決断をする
・ご本人へのポジティブな声かけ
・ご本人と勉強で競争してみる
・経済的なサポート
また、絶対に避けたいこともありました。
・受験を否定するような声かけ
・勉強のやる気を削ぐような声かけ
・塾の講師や家庭教師を否定するような言葉
全体的には、お父様は少し客観的なところから受験を見渡して、必要なときだけ関わるイメージを持っておくといいでしょう。絶妙な距離感で受験を成功に導くサポートをしてあげてください。