サピックスでは例年6年生の2月ごろに「GS特訓のお知らせ」が配布されます。お子さんからこのお知らせを受け取ったとき、「これって受講する必要はあるの?」と感じてしまうご両親は多いようです。GS特訓は受けるべきなのでしょうか。それとも受けなくてもいいのでしょうか。
GS特訓とは
GS特訓とは「ゴールデンウィーク(G)サピックス(S)」のこと。その名の通り、例年5/3~5/5の3日間、集中的に授業が実施されます。平常授業や土曜特訓とは別のものとして位置づけられており、別途授業料がかかります。
GS特訓の特徴1 はじめての本格的な志望校別コース編成
本格的な志望校別にコース分けされているのが、GS特訓の大きな特徴です。
2月からはじまった土曜特訓でもコース名に「開成・筑駒」「麻布・駒東」「桜蔭・女子学院」「豊島岡・渋谷渋谷」「早稲田・慶応」「栄光・聖光」「浅野・サレジオ」「海城・芝」などなど、さまざまな学校名がついています。しかしながら、成績順にコースが決まっているのが実際のところです。
GS特訓では基本的に、本当の志望校にしたがってコースが決められます。もちろん同じ志望校のお子さんがたくさんいれば、「開成1」「開成2」「開成3」のように成績順にコース分けされます。つまり、たとえば「開成1」には「開成を目指す、同じぐらいの偏差値の受験生」が集まっていることになるわけです。これは受験生にとって、大きな刺激になります。
GS特訓の特徴2 はじめて朝から夕方までお弁当持ちで行われる
GS特訓の授業時間は「70分×6コマ=合計7時間」。午前中に「算数・国語・理科(社会)」、午後に「算数・国語・社会(理科)」を3時間半ずつ受けることになっています。
9時~17時までお弁当持ちで授業を受けるのは、受験生にとってはじめての経験。ついこのあいだまで5年生で1日3時間しか授業を受けていなかったことを考えると、その2倍以上の時間を3日続けて塾で過ごすのは「すごく、大変!」に思えるようです。しかしながら、GS特訓での経験は9月からはじまる「SS特訓(サンデーサピックス)」への布石になります。SS特訓の授業時間は8時間40分。GS特訓での経験があるからこそ、それだけの長時間の学習も当たり前の顔をしてこなせるようになるのです。
実際の話をすると、ほとんどのお子さんたちが3日間元気に通いきります。
GS特訓を受けないのはあり? なし?
GS特訓は受けるべきなのでしょうか。それとも受けなくてもいいのでしょうか。
筆者の個人的な意見を言えば、サピックスに通っている6年生なら相当の理由がない限り受講すべきだと考えています。この考えは家庭教師に転職し、サピックスとは利害がなくなった現在も変わっていません。
筆者がここまで言い切るのはなぜでしょうか。それはGS特訓の目的とGS特訓後の受験生の変化を考えればわかってきます。
GS特訓の目的
GS特訓の目的は、「現在の自分と志望校合格までの距離を認識させ、受験生としての自覚を芽生えさせること」だと考えています。
6年生は「受験生」と呼ばれますが、実際のところGWの時期はまったく受験生ではありません。まだまだ5年生までの意識をひきずったまま通塾しています。GS特訓はこうした意識を変えるために実施する講座。この意識の変化が、夏期講習以降の飛躍のベースになるのです。
そのため、基本的には以下のような授業が展開されます。
・演習中心の授業
・志望校の傾向や難易度に合った問題
(コース名に中学校の名前がついていない場合、難易度が入試レベル)
・毎日のコース昇降
・得点順の座席
通塾している校舎によって多少のバラつきはあるかもしれませんが、概ねこういった授業になると考えて問題ないでしょう。実際、筆者自身も上記のようなことを意識したうえで受験生に接していました。
GS特訓後の受験生はどう変化する?
GS特訓の目的を考えると、お子さんたちにとってはなかなか過酷な講座のように思えます。
それではGS特訓を終えたお子さんたちは、どのように変化するのでしょうか。あるエピソードを紹介します。
~国語の演習が終わり、筆者が板書と口頭で記述問題を解説中~
Aくん「先生! 先生の解説なら、おれ、もっと点数をもらえると思う!」
筆者「ああ、内容はとってもよかったよね。でも、ほらここ。ひらがなを間違ってるよね。で、ここは『ら抜き言葉』になっているでしょ。で、この文は、主語と述語がねじれていて文になってないし、ここはそもそも文がつながっていないでしょ。最後に文末を間違えているよね。こういうの、全部1点ずつ引いといた。だから1点」
Aくん「はあ⁉ 厳しくない?」
筆者「いやいや、入試で減点されるかもしれないでしょ」
Aくん「ええ~」
ここまで読んで、「やりすぎなのでは?」と思うか「これぐらいやって当然」と思うかはそれぞれだと思います。ただ筆者としては、これぐらいやってようやく受験生として意識が芽生えるものだと思っています。実際Aくんはこれ以降、自分の解答について受験生として意識できるようになっていきました。
これはAくんだけにたまたま起こったことではありません。Aくんと同じような経験をして受験生としてのスタートラインに立つお子さんはたくさんいます。
GS特訓 Q&A
GS特訓のよくある疑問について、筆者の見解をまとめました。
Q 苦手科目の克服に時間を使いたいので、GS特訓はおやすみしたほうがいいのでは?
GS特訓に参加するということは、5/3~5/5の3日間をサピックスで過ごすということです。そのあいだは個々の得意・不得意とは無関係に、サピックスのカリキュラムに沿って学習することになります。
ですから、「この3日間を苦手科目や苦手分野の克服に使ったほうがいいのでは?」と考えてしまう気持ちはわからなくもありません。
しかし、塾に行かずに苦手科目や苦手分野の克服に挑むのは、ほとんどのご家庭にとってはハードルの高いものです。それよりもGS特訓に参加して受験生としての意識を芽生えさせるほうメリットがあると考えています。
GS特訓をおやすみして苦手科目や苦手分野の克服に使うのなら、家庭教師や個別指導の先生にしっかりとサポートしてもらいましょう。
Q 志望校調査の用紙が配られましたが、現在の偏差値より高い中学校を書いてもいいのでしょうか?
GS特訓前は志望校別講座です。そのため、お子さんが受講するコースを決めるために、志望校を調査する用紙が配布されます。「うちの子の偏差値よりずいぶん学校が志望校なのですが、本当に書いてもいいのでしょうか?」というご質問をいただくことがあるのですが、まったく問題ありません。基本的には用紙に書いた志望校を冠にしたコースで受講することになります。
また、GS特訓前の志望校とお子さんの偏差値の乖離を元に、志望校の再考をうながすよう言われるようなことは基本的にないと言って差し支えありません。(少なくとも筆者はそういった話を聞いたことも、その現場を見たこともありません)
Q GS特訓の問題で点が取れないのだけど大丈夫でしょうか?
GS特訓が終わってお子さんの解答用紙を見てみると、100点満点で30点だった……というようなことがよく起こります。ご両親としては、「ええ! これで大丈夫なの⁉」と心配になってしまいますよね。
しかし、こうした答案を見て慌てる必要はありません。先ほど紹介したように、GS特訓では入試レベルの問題に取り組むことになります。5月の段階で合格水準点を取れるほうが珍しいのです。
GS特訓のあいだは得点が低くてもじっと我慢して、あたたかくお子さんを見守ってあげてください。
まとめ
GS特訓の主な目的は「現在の自分と志望校合格までの距離を認識させ、受験生としての自覚を芽生えさせること」です。また、GS特訓後に少しずつお子さんたちの意識が変わってくることを考えれば、基本的には受講するほうがいいと考えます。
それでも「GS特訓はおやすみさせて、苦手分野や苦手科目の克服に時間を使う!」という場合は、家庭教師や個別指導の先生にサポートしてもらいましょう。