中学入試の国語の問題のなかには多くの場合、記述問題が含まれています。そして、その難易度は年々高くなっているというのが率直な印象です。特にかつては出題されていた、本文を写せば済むような問題が減り、文章の構造を理解したうえで本文中の内容を理解し、自分で抽象化しなければならないような問題が増えているように感じます。
そのいっぽうで小学生は現在も昔も大きく変わりませんので、「記述問題は苦手!」「記述問題が嫌い!」という子は少なくありません。「記述問題は難しいし苦手。でも、進学したい中学校では記述問題が出る……」。中学受験生はこのジレンマのなかで学習を進めているのですね。家庭教師をしている立場ですが、小学生は本当にがんばっているなと思います。
あえて筆者が書くまでもないことですが、中学校の入試問題を受験生が変えることはできません。記述問題が出題される中学校に合格するためには、自分の苦手を克服して記述問題で得点できるようにしていくしかないということになります。
それでは、どのようなことを意識して学習すれば、記述問題で得点できるようになるのでしょうか。基本的な手順から問題タイプ別の書き方まで紹介します。
【この記事を読むとこんなことがわかります!】
- 記述問題の基本的な考え方と手順
- 記述問題で得点するために書くべき要素
- 得点の高い答えと低い答えの違い
問題を解く手順
記述問題の解き方や書き方を学習する前に大切なことがあります。それは、問題にはそもそも解答の手順があるということです。
国語の苦手な……いえ、科目を問わず苦手だと話す受験生を見ていると、設問をなんとなく読んだあと、すぐに答えを出そうとしていることが少なくありません。それでは問題を解くことはできませんよね。
記述問題、選択問題、抜き出し問題など問題のタイプにかかわらず、まずは以下の手順をしっかり意識しましょう。
- 設問を読んで理解する
- 本文に戻って解答を考える
- 記述する(選択肢から選ぶ)
まずは設問をしっかり理解すること。そのあとで問題を解くために必要なことを考え、実際の答えを出しましょう。
記述問題の基本的な考え方
ここからは記述問題の具体的な考え方や解き方を紹介していきます。まずは、記述問題に向き合う基本的なスタンスを理解しておきましょう。
本文を読んだことのない人が読んで、意味がわかる答えになるように書く
まず大切なのは、「本文を読んだことのない人が読んで、意味がわかる答えになるように書く」よう心がけることです。
採点者は、もちろん本文をしっかり理解しています。ですが、答えを書く受験生側は、本文を読んだことのない人にしっかり説明するつもりで書きましょう。
本文を読んだことがない人が読んでわかる文が、「伝わりやすい説明」「わかりやすい答え」です。「主語がない」「述語がない」「理由が書かれていない」など、わかりづらい説明になってしまう要素はいくつかあります。これらに注意して、「本文を読んだことのない人が読んでわかる答え」を書きましょう。
「モアベターな(よりよい)答え」を書く
もう一つ大切な考え方は、「モアベターな(よりよい)答えを書く」ことです。少しわかりづらいかもしれませんね。
記述問題と選択問題の違いを考えてみましょう。選択問題は「あくまで本文に書かれている内容を論理的に考えた場合、誰が考えても答えを一つに選べる」のが特徴です。
いっぽうの記述問題では満点の得点をもらえる解答だったとしても、まったく同じ文のものはめったにありません。書き手である受験生が違えば、どこかが必ず異なる答えができるはずです。
つまり、記述問題には完璧なたった一つの答えは存在しないことになります。
記述問題で完璧な答え(パーフェクトな答え)を書くのは不可能です。どうすればもっとよい答え(モアベターな答え)になるだろうかと考え、答えを作っていきましょう。
記述の答えを考える手順
ここからは記述問題の答えを書く手順を紹介します。「手順」としていますが「1」以外は必ずしも順番通りでなくても構いません。最終的に入れるべき要素を入れられればいいわけなので、臨機応変に考えていきましょう。
問題でなにが問われているのか理解する
まず大切なことは、問題でなにが問われているのかを理解することです。これを理解しないままで答えを考え、書くことはできませんよね。「理由」「気持ち」「言い換え」など、代表的なものがいくつかあります。問題文に線を引きながら、しっかり確認しましょう。
なにが問われいているのかと一緒に問題の条件も確認するといいですね。「本文の(中略)のあとをよく読んで」「人間とゴリラの違いがわかるように」など、問題によってさまざまな条件がつくことがあります。条件を見落とすと答えにまったく関係ないことを考えることになりかねません。
ちなみに、条件の確認は国語の記述問題だけでなく選択問題や抜き出し問題、さらには他教科の問題を確認するときにも非常に重要です。
問題を確認した時点で、自分が書く答えの文末が決まりますね。「理由」が問われていたら「~から。」、「気持ち」が問われていたら「~気持ち。」ですね。詳しくはあとで説明します。
答えに主語を入れる必要があるか考える
国語の苦手な受験生の記述問題の答えを読んでいると、主語がないことがよくあります。文は主語と述語がそろうことで完成します。「基本的に主語を入れるべき」という意識は持っておきましょう。
ただし、すべての問題で主語を入れる必要があるかというとそうでもありません。記述問題の答えを考えるときには、「そもそも主語を入れて書くべきか、主語を書かなくてもいいのか」をしっかり確認しましょう。
主語を入れなくても構わないのは、問題で主語が指定されている場合です。
【例題】
傍線部①とありますが、筆者が「失敗」の経験を大切だと考えているのはなぜですか。50字以内で説明しなさい。
この問題の場合、問題のなかで「筆者が」と主語が指定されていますから、答えのなかにわざわざ「筆者は」と書く必要はありません。逆に主語を書くことで50字という制限のなかに収まらず、失点につながってしまうかもしれません。
以下の「解答例1」「解答例2」を見てみましょう。答えは「筆者は」という主語が入っていない「解答例2」でよいことになります。
【解答例1】
筆者は、人間は失敗を重ねることで失敗を乗り越えられる自信を得られ、精神的に成長していくと考えているから。(52字)
【解答例2】
人間は失敗を重ねることで失敗を乗り越えられる自信を得られ、精神的に成長していくと考えているから。(48字)
設問で指定されているからと言って、すべての問題で主語を入れなくてもいいというわけではありません。主語を入れなくてはならないことも、よくあります。たとえば、設問で指定されているのと、別の主語を出さなくてはならないときはしっかり書きましょう。
以下の問題がそのケースです。(主人公をA、その友人をXとします)
【例題】
Xを元気づけるためにAはどのようなことをしたか、説明しなさい。
解答全体の主語としては、Aが指定されています。その意味では先ほどの問題と同じです。しかし、Aとは異なる主語を書かなければならないときはしっかりと入れる必要があります。
【解答例1】
故郷で好んで飲んでいたお茶を取り寄せてプレゼントした。
【解答例2】
Xが故郷で好んで飲んでいたお茶を取り寄せてプレゼントした。
もう一度確認すると、設問で指定されていた主語はAです。ですから、「解答例1」のように書くと、好んでお茶を飲んでいたのはAということになります。
いっぽう「解答例2」のように書くとどうでしょうか。述語である「飲んでいた」に対して「Xが」という主語を書いたことで、「Xが故郷で」「飲んでいた」ことがはっきりしました。
このように、設問で主語が指定されている場合でも、本文の内容を正確に表現するために別の主語を書かなければならないことがあります。こういった場合は、当然、主語を書かなければならないことになりますね。
答えの最後(文末)の部分を考える
先ほど少しだけ触れた文末表現について、詳しく紹介します。多くの記述問題では、設問を確認することで答えの文末を判断して問題ありません。
設問の文言 | 文末表現 |
気持ちを答えなさい。 心情を答えなさい。 どのような気持ちだったと考えられますか | 「~~~気持ち。」 |
なぜですか。 どうしてですか。 理由を答えなさい。 | 「~~~から。」 |
どういうことですか。 | 「~~~こと。」 |
筆者の考えをまとめなさい。 | 「~~~という考え。」 「~~~べきである。」 「~~~が重要である。」 「~~~べきであるという考え。」 「~~~が重要であるという考え。」 |
筆者はどうするべきだと考えていますか。 | 「~~~べきである。」 「~~~べきだと考えている。」 |
これらが代表的なものでしょうか。理由を答えるとき以外は、基本的には設問にある言葉をそのまま使えば答えの文末が決まります。
文末表現の誤りは1~2点の減点になることが多いようです。記述問題の多い学校で1~2点の失点が積み重なると、それだけで合否に影響を与えかねません。上記の表のような基本的なものについては、間違いのないよう気をつけたいですね。
主語・答えの文末表現以外の部分を考える
主語や答えの最後について考えたら、他に入れるべき要素を考えます。特にしっかり意識したいのは、「なぜ?・何のために?(理由・目的)」「なに?・どこ?(主に目的語)」「メインの答えとは逆の要素」をしっかり入れることです。一つずつ考えてみましょう。
なぜ?・何のために?(理由・目的)
まず、答えに入れるべきなのは「理由・目的」です。
たとえば、突然「いまから駅に行ってきて」と言われたらどうでしょうか? 「なんで?」と聞きたくなりますよね。「急に雨が降ってきたけれどお父さんが傘を持っていなくて困っているようだから、いまから駅に行ってきて」と言われれば、「ああ、なるほどね」と納得します。つまり、なにかを説明するときには、理由をセットにすることで相手に伝わりやすくなるのです。
以下の例題と解答例をご覧ください。(主人公をA、一人目の友人をX、もう一人の友人をBとします)
【例題】
傍線部①「Aのなかでなにかが弾けた」とありますが、それはなぜか答えなさい。
【解答例1】
Xが係の仕事をしないことに不満を持っており、その怒りを抑えきれなくなったから。
【解答例2】
Xが係の仕事をしないことに不満を持っていたが、Bの失敗をXが責め立て傷つける様子を見たことで、怒りを抑えきれなくなったから。
「解答例1」では、Aがなぜ「怒りを抑えきれなくなった」のかがわかりません。そこで「Bの失敗をXが責め立て傷つける様子を見たことで」という理由を入れて見ました。こうすることで、「怒りを抑えきれなくなった」理由がはっきりしますね。
「なぜ?・何のために?(理由・目的)」の要素は、必ず得点のポイントとなっています。しかし、これを入れずに答えを書いてしまう受験生は少なくありません。「理由や目的は入れるべきものなのだ」としっかり意識しておくことが大切です。
なに?・どこ?(主に目的語)
答えに「なに?・どこ?」を入れることも大切です。例題と解答例をご覧ください。(主人公をAとします)
【例題】
傍線部①とありますが、Aが喜んだのはなぜですか?
【解答例1】
父親がプレゼントしてくれたから。
【解答例2】
Aがずっとほしかったスパイクシューズを、父親がプレゼントしてくれたから。
「解答例1」では父親がなにをプレゼントしてくれたのかがわかりません。「父親がプレゼントしてくれたから。」という文を読んだ次の瞬間には、「なにを?」と質問してくなりますよね。
「解答例2」では、「Aくんがずっとほしかったスパイクシューズを」という要素を入れました。「なにを?」という疑問は解消されますので、こちらのほうが「伝わりやすい説明」「わかりやすい答え」、つまり「モアベターな答え」になっています。当然、得点も高くなるというわけです。
メインの答えとは逆の内容
もう一つ、メインの答えとは逆の内容を入れるのも重要なことです。少しわかりづらいと思いますので、まずは例題と解答例をご覧ください。(主人公をA、その友人をXとします)
【例題】
傍線部①とありますが、このときのAの気持ちを説明しなさい。
解答例として以下の2点があったとします。
【解答例1】
Xがサッカーで活躍したいのだろうとAの都合のいいように解釈して、Xに不本意なことを無理強いしてしまったことを後悔するとともに、申し訳なく思っている。
【解答例2】
Xはサッカーをただ楽しみたかっただけなのにもかかわらず、サッカーで活躍したいのだろうとAの都合のいいように解釈して、Xに不本意なことを無理強いしてしまったことを後悔するとともに、申し訳なく思っている。
「解答例1」でもAが「自分の都合のいいようにXの気持ちを解釈したこと」「Xに不本意なことを無理強いしたこと」を後悔し、Xに対して「申し訳なく思っている」ことはわかります。しかし、「解答例2」のように「Xはサッカーをただ楽しみたかっただけなのにもかかわらず」を入れたことで、後悔や申し訳なさがよりはっきりしますね。
このように「AだったのにB」という形にすることで、答えがよりはっきりする場合、メインの内容と逆の要素(「Aだったのに」の部分)を入れると得点が増すことがよくあります。
記述問題のよくあるタイプとその書き方の形
記述問題にはよくあるパターンがあります。
言い換え問題
設問で「どういうことですか」「どのようなことですか」と問われたら、基本的には傍線部を言い換える問題だと考えていいでしょう。比喩を言い換える問題であることが多いですね。
【例題】
傍線部①「AはXに切りつけられている」とありますが、どういういうことですか。
この傍線部の場合、本当にAがXに刃物などで切りつけられているとは考えづらいですね。これはおそらく比喩だということになります。そこで以下のように言い換えたものを答えにしてみました。
【解答例1】
AはXに傷つけられてるということ。
「切りつけられている」を「傷つけられている」と言い換えました。ただ、これでは「なにが」傷つけられているのか、そして「なにで」傷つけられているのかがわかりませんね。もしかすると、「パンチで」「肉体が」傷つけれているのかもしれません。本文を確認して言葉を補ってみます。
【解答例2】
AはXの言葉によって、心が傷つけられているということ。
傍線部にない言葉を補ったことで、傍線部をわかりやすく言い換えられました。
このように、設問で「どういうことですか」「どのようなことですか」と問われたら、基本的には言い換えの問題です。覚えておくといいですね。
「『心が傷つけられている」も比喩表現ではだろうか?」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。気になる場合は「辛い思いにさせられている」などに言い換えることもできますが、「心が傷つけられている」でも正解と判断されることが多いようです。
対比問題の書き方
対比とは、なにかとなにかを比較することです。対比で答える記述問題には、定型(テンプレート)があります。中学受験生であれば、一度は教わったことがあるはずです。
【解答例】
「ゴリラは体でつながっているだけなので他者との関係を解消しやすいが、人間は言葉でつながっているため他者との関係を解消しづらいというちがい。」
このように、対比で答える問題が出たら「Aは~だが、Bは~(というちがい)」の形で書くことをしっかり覚えておきましょう。
共通点の書き方
対比の問題のようになにかとなにかの「ちがい」を書く問題だけでなくて、「共通点」を書く問題もあります。このタイプの問題にも定型がるので覚えておいてください。多くの場合、本文中の「似ている」「同様である」「共通している」などの言葉が傍線部となっています。
【例題】
傍線部①「同様である」とありますが、なにとなにがどのような点で同様なのですか。
【解答例】
ボルネオの熱帯雨林もアマゾンの低地熱帯林も、多層群落を形成しているという点が同様であるということ。
共通点を書く場合は、「AもBも」という書き出しにすると、わかりやすい文になります。
まとめ
中学受験の記述問題は非常に難しくなっており、一定レベル以上の中学校では「本文を写せば答えになる」というようなものは少なくなりました。文章の理屈の流れや構造からどのあたりに答えの要素がありそうかを考え、内容を理解したうえでまとめることが要求されることが多くなっています。
もちろん、とにかく本文の表現や表記を変えればいいというのではなく、そのまま答えに使える表現なのであれば無理に変更する必要はありません。ただ、本文を写して文末だけ変えれば答えになるというような問題は、難関校ではなかなか出題されないということです。
今回お伝えしたのは、筆者が考える「記述問題の書き方の基本」です。「基本」というには少し難しいものも入ってしまったいっぽうで、もう少し書きたいこともありました。「できるだけ難しくならないように」という思いと「でも、必要なことをしっかり説明したい」という思いのバランスを取って、今回の内容になりました。また、「中学受験の国語」というタイトルをつけていますが、高校受験の国語や大学受験の現代文の対策にも役立つと考えています。
今回お伝えした「記述問題の考え方」「記述問題を解く手順」「答えに入れるべき要素」「記述問題のよくあるタイプと書き方」を参考に学習を進め、「記述問題って思ったより難しくないよね」「記述問題って意外と点を取れるよね」と自信を深めていただければ大変うれしく思います。