中学受験は多くのお子さんにとってはじめての挑戦するもの。学生時代にいくつかの入試を突破してきたご両親にとっても、親として受験に臨むのはほとんどの場合はじめての経験だと思います。
中学受験はほとんどの親子にとってはじめてのもの。しかし、その成否は大きく分かれてしまいます。見事に第一志望校に合格する受験生もいれば、一つも合格をもらうことができず悲しい思いをする受験生もいるのです。なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。今回は塾講師の経験から中学受験に失敗してしまう原因をまとめてみようと思います。
中学受験の失敗とは?
中学受験の失敗とは、そもそもなんでしょうか? 第一志望校に合格できずに終わることでしょうか?
一般的に中学受験の倍率は約3倍です。そうだとすると、第一志望校に合格できる受験生は全体の約1/3。「第一志望校に合格できなかったら失敗」と考えてしまうと、約2/3の受験生が中学受験に失敗するということになってしまいます。ですから、合格したのが第二、第三志望だとしても、ある程度納得がいくのであれば「成功」だと考えなければなりません。
この記事では「失敗」を以下のように定義します。
- 中学受験したが、私立や国立、中高一貫の公立に合格することができず、地元の公立中学に進学することになった。
- 合格した学校が著しく納得のいかない中学校だけだった
受験生本人にある失敗の原因
「中学受験は親子の受験」といわれます。一口に「失敗の原因」と言っても、受験生本人の原因とご両親の原因とがあるはずです。まずは、受験生本人にある失敗の原因を紹介します。
落ち着いて授業を受けることができない
塾にはさまざまな受験生が通っています。だからこそ楽しい場所なのですが、そのせいで勉強に支障が出てしまうケースがあります。
中学受験生によくいるのが、「塾は楽しい!」の意味を間違えている子です。本来、塾は「勉強が楽しい場所」でなければいけません。しかし、こうした子にとっては「みんなとふざけるのが楽しい場所」になってしまうのです。当然、授業の内容を深く理解することはなく、学力は伸びていきません。これでは中学受験に成功するのが難しいのは明らかでしょう。
お子さんがこうしたことにならないよう、「塾は勉強するところ」だということをしっかり意識させる必要があります。また、「もし授業中にふざけてばかりだったら、厳しく指導してください」などと、あらかじめ塾に伝えておくといいでしょう。
これとは少し異なりますが、授業中に自分の頭を使って考えないタイプの子もいます。「誰かが答えを言うのを待っているだけ」「ノートをカラフルなボールペンで書き写すことに必死」「とにかく黙ってぼーっとしている」などの受験生です。この場合も、塾と連携を取ることで解決できます。
宿題を半分以下しかやってこない
塾に通うことのメリットの1つは、入試に必要な学力を効率よく身に着けられるカリキュラムがあることです。「効率よく」と聞くとほんのわずかの労力で劇的に成績が上がるように錯覚してしまいがちですが、実際にはかなりの勉強量が必要です。当然、毎週必ず宿題が出ます。これはどの塾に行ってもさほど変わりはないでしょう。
中学受験に失敗する受験生の共通点は、宿題をしっかりやってこないことです。もちろんクラスの状況や個人の学力を考慮して負担が大きすぎると感じた場合、講師は宿題の量を減らすことがあります。しかし、それにも限界があります。どんなに宿題の量を減らしても、本来やってもらいたい量の半分以下にすることはできません。中学受験に失敗する受験生は、減らした宿題のさらに半分にさえ取り組んでくれないことがよくあります。
これでは実際にやった宿題の量が、本来講師がやってほしい量の1/4になってしまいます。これが1年、2年、3年と続くとどうなるでしょうか。しっかりやった子とそうでなかった子の差は大きく開いてしまいます。これでは中学受験に失敗してしまうのも仕方ありません。
親御さんの確認なく、宿題をしっかりやれる受験生は多くありません。お子さんが勉強をはじめる前に「今日はこれとこれ、それからこれをやろうね」などと伝え、1日の終わりにしっかりできたかどうかのチェックをお願いします。チェックをすることで、今後の学習スケジュールを建てる参考にすることもできます。
素直に授業の内容を聞くことができない
中学受験だけに限らず、なにかにチャレンジするときやなにかを教わるときには「素直」に取り組むことが非常に大切です。
- 「へえ、そうなんだ! おもしろいな!」
- 「こういうやり方をすればできるようになるんだ!」
- 「よし、次は自分もやってみよう!」
こうした気持ちで取り組むからこそ物事は身につくのだということを、この記事をお読みの親御さんならご存じのことと思います。
ところが、中学受験生はこうしたことを知りません。また、6年生になるころには思春期や反抗期がはじまります。そのため、素直な気持ちで勉強できなくなってしまうのです。
女子に時々あるのは「は、だから?」「は、それで?」「は、そんなこと知ってるし」などの言葉。こうした言葉が出るようになると、講師としては「ああ、これ以上伸びていかないんだろうな……」と残念な気持ちになるものです。
思春期や反抗期があるということは成長しているということでもあります。しかし、あらゆるものに反発してばかりだと、せっかく学力を伸ばすチャンスを失ってしまうのです。
ご両親側にある失敗の原因
親御さんにも中学受験で失敗する原因がある場合があります。
お子さんが落ち着いて学習に取り組むための環境が整っていない
中学受験におけるご両親の役割は「子どもが落ち着いて勉強できるようサポートすること」です。中学受験のための勉強をはじめたら、できるだけ家庭内を平穏な空気にしておくよう心がけてください。特にお子さんが6年生になったら、家庭内のトラブルはご法度です。
一番いけないのはご夫婦の協力体制ができていないことです。中学受験に対する考え方は人によってかなり異なります。夫婦の両方が「中学受験は素晴らしいもの」「中学受験させたい」「子どもの可能性を伸ばしたい」と考えている場合は問題ありません。しかし、たとえばお母様だけが「中学受験をさせたい」と考えており、お父様は「中学受験なんてしなくていいんじゃないの? どうしても中学受験させるならお前(妻)の責任でしっかり面倒見ろよ」というような状況だとよくありません。
必然的にお母様にばかり負担がかかることになり、身も心も疲弊。これが原因で夫婦ゲンカとなり、最悪の場合“中学受験離婚”という事態にまで発展することさえあります。
ご両親の関係がうまくいっていなければ、お子さんが落ち着いて勉強することはできません。「自分ががんばればお父さんとお母さんが仲良くなってくれるかもしれない」とがんばる子もいるのですが、それではあまりにかわいそうです。
中学受験はある意味で“チーム戦”です。ご両親とご本人の全員が力を合わせて志望校に合格できるよう協力体制を整えてください。
塾と良好な関係が築けていない
中学受験で成功するためには塾の活用が必須です。塾を味方につけてお子さんの成績を伸ばしていかなければなりません。前の項目で中学受験はチーム戦だと述べましたが、そのチームには塾も入っているのです。
チームメイトであるからには、ご家庭と塾は対等な立場だと考えましょう。もちろん契約上は「サービスを提供する側(塾)と、サービスを受ける側(ご家庭)」という関係になりますが、「授業料を払っているのだから、塾は家庭のいうことを聞け!」というような横柄な態度ではいけません。
塾には中学受験に精通した講師がそろっています。また、大手塾は中学入試の合否に関する豊富なデータを持っています。こうしたノウハウやデータはご家庭が自分たちの力で集められるものではありません。「志望校選びに悩んでいる」「子どもの成績が伸びなくて困っている」「最近いまいちやる気になってくれない」などといったときにすぐ相談できるよう、塾とは良好な関係を築いておくよう心がけてください。
講師を揶揄するようなことをお子さんに言う親御さんがいますが、これも絶対にやめてください。親御さんが心のなかで講師のことをどう思っても問題ではありません。しかし、それを聞いたお子さんは、その講師の授業を聞かなくなってしまいます。これでは学力が上がるはずがありません。塾全体のことは信頼していても、ある特定の講師だけ好きになれないということがあるのは仕方ないことです。しかし、それをわざわざお子さんの前で言うことだけはやめましょう
受験スケジュールに安全校が入っていない
受験スケジュールに無理がある場合は、中学受験に失敗してしまう危険性がかなり高くなります。受験スケジュールを組んだら、何度も冷静に見なおしてみてください。実際の偏差値より10以上高い中学校ばかり受験すると、進学先がなくなってしまう可能性があります。その場合はいわゆる安全校を入れて、「全滅」「全落ち」という結果にならないようにスケジュールを組みなおしてください。
もちろん「第一志望校をあきらめるべき」というわけではありません。第一志望校をあきらめたらお子さんは「自分が勉強してきた時間はなんだったんだろう」という感じ、受験に対する満足度が下がってしまいます。むしろ逆に、「どうすれば第一志望校を受験しつつ、最悪の事態を避けることができるだろうか」と考えることが大切です。ここでそのための方法を紹介します。
第一志望校を受けるための受験スケジュールの作り方
チャレンジ校である第一志望校を受験するためには、まずは志望順位の低い中学校の合格をもらっておくことが大切です。
たとえば、以下のような受験スケジュールはかなり危険です。
- 2/1午前 第一志望校 ※1回目(自分の偏差値よりも10以上高い)
- 2/2午前 第二志望校(自分の偏差値よりも5以上高い)
- 2/3午前 第一志望校 ※2回目(自分の偏差値よりも10~13程度高い)
- 2/4午前 第三志望校(自分の偏差値と同程度)
- 2/5午前 第一志望校 ※3回目(自分の偏差値よりも15程度高い)
この受験スケジュールには自分の偏差値と同じか、それ以上の学校ばかりが並んでいます。これでは最悪の場合、どこにも合格できずに終わってしまう危険があります。次のように直してみてはいかがでしょうか。
- 2/1午前 第一志望校 ※1回目(自分の偏差値よりも10以上高い)
- 2/1午後 第四志望校 ※1回目(自分の偏差値よりも下)
- 2/2午前 第二志望校(自分の偏差値よりも5以上高い)
- 2/2午後 第四志望校 ※2回目
(自分の偏差値よりも下。1回目で合格した場合は受けないor別の学校を受ける) - 2/3午前 第一志望校 ※2回目(自分の偏差値よりも10~13程度高い)
- 2/4午前 第三志望校(自分の偏差値と同程度)
- 2/5午前 第一志望校 ※3回目(自分の偏差値よりも15程度高い)
2/1の午後に第四志望校の入試を入れてみました。こういった受験スケジュールの組み方なら、第一志望校の受験と最悪の事態の回避を両立することができます。
「第四志望の合格をもらってもな……」と思うかもしれませんが、実際に第四志望校に進学するかどうかが重要なのではありません。本当の狙いは早めに合格をもらうことで、その後の入試を安心して思い切り受験できる状態にすることです。
入試直前になって転塾する
中学入試直前になって突然塾をやめてしまう受験生がいます。ただ、もちろん中学受験自体をやめてしまうわけではありません。転塾して中学受験の勉強を続けるのです。
これが5年生の夏や5年生の終わりであれば問題ないでしょう。ただ、入試直前になっての転塾には大きな問題があります。
大手塾にはそれぞれノウハウとスタイルがあります。そして、子どもたちがそれに慣れるには3か月程度かかるものです。塾側も新しく入ってきた生徒のことを理解するのに3か月程度かかります。そうだとすると、入試直前に転塾しても塾に慣れる前に本番がやってきてしまうことになります。そのあいだは受験生も心がそわそわしてしまい、落ち着いて勉強できないでしょう。当然、調子を大きく崩すことにつながりかねません。
また、入試直前の塾は非常に慌ただしい雰囲気に包まれています。本番まで3か月前に入ってきた受験生より、何年も一緒にがんばってきた受験生を優先してサポートするのは当然でしょう。そうであれば、せっかく転塾したのに満足のいくサポートを得られずに入試を迎えることになってしまいます。
直前になっての転塾には「100害あって1利なし」です。
入試直前や前日に普段と違う生活をさせる
入試直前は受験生だけでなく親御さんもそわそわしてしまうものです。この時期はとにかく親御さんがどっしり構えていることが大切。「もうすぐ入試だから!」といつもと変わったことをする必要はありません。お子さんは想像以上に親御さんの雰囲気の変化を察しています。いつもと変わったことがあると、それが緊張として伝わってしまうのです。「入試直前期ほど淡々と淡々と」という意識を大切にしてください。
もちろん、健康面のサポートはしっかりとお願いします。インフルエンザや風邪にならないように気を付けさせることは非常に大切です。場合によっては入試1~2週間前から小学校を休ませてしまうという方法もあります。2週間休ませれば、もしインフルエンザになっても本番には完治しているはずです。
まとめ
【受験生本人にある失敗の原因】
- 落ち着いて授業を受けることができない
- 宿題を半分以下しかやってこない
- 素直に授業の内容を聞くことができない
【ご両親側にある失敗の原因】
- お子さんが落ち着いて学習に取り組むための環境が整っていない
- 塾と良好な関係が築けていない
- 受験スケジュールに安全校が入っていない
- 入試直前になって転塾する
- 入試直前や前日に普段と違う生活をさせはじめる
中学受験に失敗してしまう原因を塾講師の経験からまとめてみました。ほとんどの受験生や親御さんにとって中学受験ははじめての体験であるはず。読んでくださった皆様の中学受験が成功することを心から願っています!