10年ほど前から「リビング学習」と呼ばれる学習習慣が流行しています。一言で表すなら「子どもをリビングで学習させましょう。高い学習効果が期待できますよ」ということ。これだけ聞くと非常に単純に思えますが、やり方を間違えると逆効果になってしまいます。お子さんにリビングで学習させようと考えたとき、どのような点に気を付ければいいでしょうか。
ある受験生からの相談
なかなか成績が上がらず困っているという受験生からこんな相談を受けたことがあります。
受験生「先生、僕はお母さんが言うのでリビングで勉強しているんですけど、本当は自分の部屋で勉強したいんです」
筆者「リビング学習だね。これでうまくいく子もいるんだけど、どうしてやめたいの?」
受験生「だって、僕がテーブルで勉強してるのに、お母さんはソファに座ってテレビばっかり観てるんですよ。集中できなくって……」
筆者「それは確かに困るね」
受験生「それにCMのたびに僕が勉強しているところに来て、『どこまでやったの』『まだこれだけ』『もっと効率よくやりなさい』ってうるさいんですよ」
この受験生のお母様は、残念ながら「リビング学習」の意味を間違えているようです。
リビング学習とは? メリットとデメリット
「リビング学習」とは、その名の通り子どもがリビングで勉強すること。実感としては、10年ほど前から流行しはじめ、現在は多くの家庭で取り入れられているようです。では、リビング学習にはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
リビング学習のメリット
まずは、リビング学習のメリットから紹介します。
- 親の目があるので勉強するしかない
- 親の姿があるので安心できる
- 適度に雑音があるリビングのほうが集中できる
- わからないことはすぐに親に聞くことができる(低学年・中学年)
- がんばったことを褒めてあげることでやる気や自己肯定感のアップにつながる
- 親にとっては子どもの様子がわかりやすい
- 親と子が学習の進捗状況を共有しやすい
リビング学習のメリットを考えると、そのほとんどが「親が近くにいる」という一点にまとめることができます。
子どもが自分の部屋で勉強していると、いつのまにかマンガやゲームをやっていることが少なくありません。また、子どもはわからない問題を必死で考えられないことが多いもの。考えながら無意味にシャープペンやボールペンを分解したり消しゴムをちぎったりしはじめ、気がつけば問題よりもそちらに夢中になってしまうこともあります。親が近くにいれば、こうしたことをある程度防ぐことができるでしょう。
親が近くにいることで、子どもの様子がわかりやすいというメリットがあります。子どもが自室で勉強していると「なにをどこまで進めているのか?」や「わからないことがないか?」などを把握しづらいものです。子どもがリビングにいれば、さりげなくチェックすることができます。このとき子どものがんばりを褒めれば、自己肯定感ややる気をアップさせることができるだけでなく、親子の信頼関係をつくることにもつながるでしょう。
子どもが自室で集中力を切らしてしまう理由の1つに、「1人でいるのが恐い……」という心理があります。特に机の後ろに大きな空間があると、その傾向が強いようです。これは“盲点”の一つなのではないでしょうか。一方、リビングにいれば必ず母親が近くにいるため、安心して取り組むことができます。
リビングでは適度に音が聞こえていることにも注目したいですね。これは子どもに限ったことではありませんが、静かな空間だと逆に集中できないという人がいます。音楽や店員の声が響くカフェで長時間仕事できる人は、静かな空間よりも適度に音がある空間のほうが集中できるという人なのでしょう。お子さんがこのタイプである場合、夕食の準備や食器洗いの音が聞こえるリビングは、集中して勉強するのにぴったりの場所ということになります。
リビング学習のデメリット
リビング学習にはデメリットもあります。
- 親が口出ししたくなる
- テーブルの上に勉強道具が溜まっていく
- 勉強机を置く場合、スペースを確保しなければならない
もっとも大きなデメリットは、親が子どもの勉強に口出ししたくなってしまうことです。大人から見ると、子どもが勉強するペースはもどかしくなるものです。少し勉強してはぼーっとしてみたり、わからない問題が出てきては爪をいたずらしてみたり……。普段、忙しい時間をやりくりしている大人が「もっと集中してやりなさい!」、「もっと効率よくやりなさい!」と言いたくなるのも無理はありません。
しかし、これは大人の理屈。怠けているように見えるときも、子どもなりに考えている場合があります。また、いつも親が近くにいてあれこれ口出しされると、まるで“監視”されている気分になってくるもの。実際に「親が僕を監視しています」という声を受験生から聞くことはあります。これでは子どものモチベーションが上がるわけがありません。
冒頭に紹介した受験生のお母様はなにを間違っていたのか
冒頭に紹介した受験生の例に戻ります。彼は母親に言われてリビングで勉強していたものの、集中できずに困っていました。その理由は、同じ空間で母親がテレビを観ていたことです。食事の準備や食器洗い程度の音であれば集中力をアップすることにつながります。しかし、テレビから笑い声や音楽が聞こえるなかで集中できるはずがありません。
彼は母親が気まぐれに声をかけてくることにも不満を抱いていました。彼には彼の勉強ペースがあったはず。それを無視した声かけは、彼にとって雑音でしかなかったのでしょう。
「リビング学習」といいますが、ただリビングで勉強させればいいというのではありません。ご両親がリビング学習のメリットとデメリットをある程度理解したうえで、適切な環境をつくってあげることが大切なのです。子どもにはテーブルで勉強させ、親はテレビを観ているのでは「リビング学習」とは言えません。
さらに進んだリビング学習の特殊な成功事例
最後に、ここまで紹介したセオリーをまったく無視したリビング学習で、大成功を収めた例を紹介しましょう。子どもが都内の最難関校に進学したある母親とお話ししていたときのことです。
お母様「うちもリビングで勉強させていました」
筆者「そうなんですね。リビング学習っていうと、子どもの勉強を邪魔しないように気を付けることがあって大変だったのではないですか」
お母様「うちはあまり気を遣いませんでした。子どもの隣で普通に会話していましたし、入試の数か月前まではテレビも観ていました」
筆者「え、そうなんですか。なにか狙いがあったんですか?」
お母様「狙いというほどではないですけど……。たとえば、ニュースのなかで台風の話が出たとしますよね。でも、私は台風について具体的なことをあまり知りません。そこで、子どもに説明してもらうのです」
筆者「お子さんを先生役にするのですね?」
お母様「もちろんその意味もありますが、それだけではありません。一番の理由は、『塾で教わったことはテストにだけ通用するのではなくて、生きていくなかで必要な知識なんだよ』っていうことを伝えたかったんです」
筆者「なるほど」
お母様「中学入試に合格するのはもちろん嬉しいことです。でも、それだけで終わってしまったら受験した意味がありませんから」
この話を聞いたとき、非常に感心しました。例えば、社会科では四大公害病について教わります。しかし、それぞれの発生した地域と病名、原因を結び付けて覚えるだけで、どんな症状が出たのか、患者がその後どのような人生を送らなければならなかったのかなどといったことには興味のない子どもはたくさんいます。むしろ興味のない子がほとんどです。これは公害の問題を入試に合格するための知識としてしか考えていないことの表れでしょう。
このお母様は受験勉強で学んだことは、実際の社会に関係することなのだとお子さんに教えようとしました。だからこそ、あえてテレビのついたリビングで子どもを勉強させたのでしょう。(もっとも入試数か月前には子どもから「集中できない」と言われ、テレビをつけるのをやめたそうですが)
ただ、これはあくまで特殊な事例。真似するときは、お子さんの性格などをしっかり考慮してください。
まとめ
最後にここまでの内容をまとめてみます。
リビング学習のメリット
- 親の目があるので勉強するしかない
- 親の姿があるので安心できる
- 適度に雑音があるリビングのほうが集中できる
- わからないことはすぐに親に聞くことができる(低学年・中学年)
- がんばったことを褒めてあげることでやる気や自己肯定感のアップにつながる
- 親にとっては子どもの様子がわかりやすい
- 親と子が学習の進捗状況を共有しやすい
リビング学習のデメリット
- 親が口出ししたくなる
- テーブルの上に勉強道具が溜まっていく
- 勉強机を置く場合、スペースを確保しなければならない
最後に紹介したようなリビング学習は特殊な事例です。真似するときは明確な目的を持ってください。また、うまくいかない場合はオーソドックスなリビング学習に戻すといいでしょう。