中学受験生のご両親から「どんな言葉をかければやる気になってくれるかわかりません」「できていないことばかり目についてしまって、つい怒ってしまうんです」と相談されることはよくあります。おそらくお子様の様子や試験結果を見ていて、「こんなミスをしているようでは、本番までに間に合わない!」「もっとがんばってほしい!」と感じてしまうのでしょう。ご両親のお気持ちはよくわかります。
成績アップにつなげ合格に近づくために、どのような声かけをすればいいのでしょうか。普遍的な正解はないかもしれませんが、私が意識している声かけの仕方を紹介します。
声かけの基本は「ポジティブワード」
中学受験生になにかを伝えるときは、常にポジティブワードを使うよう心がけるといいですね。文字通り「常に」ポジティブにポジティブに。これをとにかく意識しています。ポジティブな言葉をかけるほど受験生がやる気になってくれるというのは、経験上まちがいありません。
逆に言うと、ネガティブワードはできるだけ使わないようにするということでもあります。「バカじゃないの」「ホントにどうしようもない」といった直接的な言葉はもちろんのこと、「どうしてこんな問題もわからないの」といった言葉も使わないほうがいいですね。
「どこか褒められるところはないかな?」と探しながら接する意識も大切にしています。大人でも会社や職場で叱られてばかりでは辛い気持ちになるものです。まして中学受験生は小学生ですから、叱られてばかりではやる気がなくなってしまいます。常に褒める準備をしておいて、いいところがあったらすかさず褒めるといいですね。
「改善点を指摘してはいけない」わけではない
「声かけの基本はポジティブワードを意識的に使うこと」と聞くと、「それじゃあ、できていないことを伝えるときはどうすればいいの?」と感じてしまうかもしれません。
大切なことは、「ポジティブな言葉を使う=改善点を指摘してはいけない」ではないということです。お子さんに改善点やできていないことがあったら、しっかりと伝えてください。ただ、ちょっとしたコツがあります。改善点を指摘するときはネガティブな言葉を使いがちです。ですから、できるだけポジティブな言葉に変換して伝える意識を持つといいですね。。
たとえば、こんな伝え方をしたことはありませんか?
ここまで露骨ではなくても、心当たりのある方はいらっしゃるのではないでしょうか。実を言うと、私も以前は似たような言葉をつい使ってしまうことがありました。ただ、いまではポジティブな言葉に変換するように努力しています。
ポイントは「~ない」という言葉を可能な限り使わず「~できる」「~なる」という言い方にすることです。難しそうにも感じますが、慣れれば比較的すぐにできるようになります。
「ゴットマン比率」を参考に声かけについて考えてみる
お子さんに声をかけるときに参考になる考え方があります。「ゴッドマン比率」です。
ゴットマン比率とは、ワシントン大学のジョン・ゴットマン心理学名誉教授が提唱した、人間関係を破綻させない「ポジティブな言葉とネガティブな言葉の比率」です。
【ゴットマン比率の例1】
・夫婦関係や恋人関係 ポジティブワード5:1ネガティブワード
・友人関係 ポジティブワード8:1ネガティブワード
・スポーツクラブのコーチと教え子の関係 ポジティブワード10:1ネガティブワード
・お店のスタッフと客の関係 ポジティブワード20:1ネガティブワード
人間関係を保つためには、いずれの場合もポジティブワードをネガティブワードの数倍使う必要があるということがわかります。それでは親子関係の場合、どれぐらいの比率で使う必要があるのでしょうか。
【ゴットマン比率の例2】
・親子関係 ポジティブワード3:1ネガティブワード
親子関係ですから、そう簡単に破綻することはありません。それでも親子関係を保つためには、ポジティブワードをネガティブワードの3倍は使う必要があるのですね。
「そうは言っても、ポジティブな言葉をネガティブな言葉の3倍もかけるなんて難しい」と感じてしまうかもしれません。
ただ、このゴットマン比率の考え方を参考にして、ポジティブな話を意識的に増やし、ネガティブな話を減らすことはできるような気がしませんか? お子さんのいいところをたくさんピックアップし、改善すべき点は少しだけにしておくのです。
そうだとはいえ、実際は改善点をたくさん伝えなければいけないこともよくあります。そんなときは前述したように、なるべくポジティブな言葉に変換するよう心がけるといいですね。
ポジティブな話とネガティブな話、どちらを先にするべきか
もう一つ声かけの参考になりそうな話を紹介します。私は以前、心理学者の先生に「誰かに改善してほしい点を伝えるとき、いい面を先に伝えてから改善点を指摘するのと、先に改善点を伝えてからその人のいい面を伝えるのでは、どちらがいいでしょうか?」と聞いてみたことがあります。
先生の回答は前者……つまり、先にいい面を伝えてから改善点を指摘するほうがいいということでした。改善すべき点を素直に聞いてもらうためには、まずは話を聞いてもらう必要があります。先に改善点を指摘すると、反発を招いてしまうと考えられるそうです。
こうした学者あるいは専門家のお話をまとめると、以下のような声かけがいいのではないかと考えらえれます。
・「ポジティブな話→ネガティブな話」の順番で伝える。
・ポジティブな話をできるだけ増やし、ネガティブな話はできるだけ減らす。
さらに、ネガティブな話をポジティブな言い方に変換できれば、ポジティブワードを増やしながら改善点を伝えられますね。
まとめ
・中学受験生に声かけをするときは、ポジティブな話やポジティブな言葉を心がける。
・改善点を指摘するときは、できるだけポジティブな言葉に変換する。
・ポジティブな話をできるだけ増やし、ネガティブな話をできるだけ減らす。
・「ポジティブな話→ネガティブな話」の順だと伝わりやすくなる。
繰り返すことになりますが、今回紹介したのは「声かけテクニック」ではありません。受験生がテクニックによって声をかけられていることを知ったら、傷ついてしまうでしょう。あくまでも私が意識していることだと理解していただければ幸いです。受験生への声かけに困っているご両親の参考になることを願っています。