「中学受験は才能で決まる」と言われることがあります。確かに毎年多くの子どもたちを見ていると「勉強の才能がすごくあるな!」と感じる受験生がいるものです。そう考えると、中学受験の成否に才能が関わっていることは間違いないと言えるでしょう。
では、才能のある受験生はみんな第一志望校に合格しているのでしょうか。もちろん入塾当初から豊かな才能を発揮して、そのまま最難関校に合格する生徒も存在します。しかし、第一志望校を逃し、第二志望校や第三志望校に進学する子が多数いるのも事実です。
一方で、塾に入った当初には「これはすごい才能だ!」と感じなかった子が、最難関校や第一志望校に合格していくこともたくさんあります。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
そもそもどんな子を「才能がある」と感じるのか?
塾講師や家庭教師は、そもそもどのような生徒を「才能がある」と感じるのでしょうか。
- 講師の話をすーっと自然に理解できる(聞いてから理解するまでにタイムタグがない)
- 教えたことをすぐに再現できる
- 覚えるべきことをすぐに覚えられる
- 応用的な問題をあらゆる角度から考える柔軟性がある
- 一つのやり方で行き詰ったときに、一度ゼロに戻って別の考え方ができる
講師によって差はあると思いますが、おおむねこのような特徴のある生徒を「才能がある」と感じるようです。この「才能がある」ことを、中学受験業界では「地頭(じあたま)がいい」と表現することがあります。
地頭のいい子は中学受験に成功するか?
地頭がいい子は、例外なく第一志望校に合格するように思えます。ところが、実際はそうでないケースが多々あるものです。以前、担当した子にAくんという受験生がいました。
Aくんは、なかなか地頭のいい子ども。教えたことはすぐに理解するし、類題を解かせると当たり前のように正解します。それなのに勉強自体が好きではなく宿題をサボりがちだったのが残念ではあったのですが、その豊かな才能に多くの講師が期待していました。
ところが、Aくんの成績は5年生の後期から少しずつ低下。当時、Aくんのお母さんとこんな会話をしたことを覚えています。
Aくんのお母様「最近、全体的に成績が落ちているようで……。どうすれば、いいでしょうか」
筆者「授業中はよく話を理解していますし、教わったことはすぐに使えます。ただ、宿題をやってこないことが多いので、次の週には忘れてしまっていることがあるんです」
Aくんのお母様「宿題はどうもやる気にならないようで……。家で机に向かっていても、全然集中してくれないんです」
筆者「我々も注意して彼を見ていますし、宿題をやるように声をかけていきます。もう少し様子をみましょう」
その後、筆者を含めた各教科の講師陣は、彼がやる気になるよう褒めたり叱ったり、あらゆる方法を試みました。しかし、授業中はそれなりに楽しく勉強しているものの、宿題はどうしてもしっかりやってくれません。予習にしても復習にしても、授業と宿題はワンセット。宿題をしっかりやってくれないと、授業の効果は半減してしまいます。
結局6年生の夏休みになるころには、Aくんは最下位のクラスに定着。もともと勉強が好きだったわけではなかったこともあり、授業中もふざけてばかりの子になっていきました。6年生後期に話したときの、お母さんの言葉が印象的です。
筆者「本当に才能はある子なので、やる気にさえなってくれればいまからでも伸びる子ではあると思うのですが……」
Aくんのお母さん「才能はあると言ったって……。いつになったらやる気になってくれるんですか?」
結局Aくんがどの中学校に進学したのかはわかりません。入試期間の途中で連絡が取れなくなってしまったことを考えると、どの中学校にも合格できず公立に進学したのだと思われます。
Aくんの失敗については、いまも後悔することがあります。そもそもある程度問題を解ける子だったのに、なぜ勉強が好きではなかったのか……。もしも彼をやる気にさせてあげることができていたら、なにかが変わっていたかもしれません。しかし、筆者は同時にこんなことも学びました。それは「地頭がよくても、努力しない子は合格できない」ということです。
地頭よりも大切な“もう一つの才能”とは
確かに中学受験の成否には才能、つまり地頭のよさが大きく関わっています。しかし、それは材料の一つでしかありません。先ほど紹介したAくんのように、豊かな才能がありながら残念な結果で終わっていった子が何人もいます。
では、中学受験で成功するために本当に大切なことはなんでしょうか。それは、淡々とコツコツと勉強を続ける力です。
つい最近、筆者はこんな生徒を担当しました。5年生のころまで下位クラスにいて、特に目立ったところのない女子でした。ところが、彼女は宿題をはじめとする「やるべきこと」を根気よく続け、最終的には5年生のころには考えられなかった中学校に合格しました。しかも、複数回ある入試日程のうち、特にレベルが上がるとされる最終日の試験で合格してきたのです。
中学受験はおもしろいもので、地道に努力した子が嬉しい思いをするようにできています。それは、必ずしも開成中学や桜蔭中学といった最難関校の合格ではないかもしれません。しかし、努力を続けた子はほぼ例外なく自分の希望する中学校のうちの一つに合格し、笑顔で卒業していきます。長いあいだ多くの受験生を見てきた経験から、これは明らかです。
中学受験に限らず、「才能」と「努力」があたかも対義語のように語られることがあります。しかし、筆者はそうは思いません。努力は立派な才能です。中学受験で成功するための立派な才能なのです。
まとめ
- 「才能がある」と感じる子は「地頭(じあたま)」のいい子である
- 地頭がいいからと言って、必ずしも合格して受験を終えるとは限らない
- 地頭のよさよりも大切なのは、コツコツ努力を続けられる力
- 努力できることは立派な才能である
中学入試における「才能」とは「努力を継続できる力」のこと。地頭(じあたま)のよさだけで合格できるほど中学受験は甘くないのです。
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