先日、筆者の友人からこんなことを言われました。友人は子どもの中学受験を検討しています。
友人「塾に入っても勉強についていけないと“お客さん”になっちゃうんでしょ?」
確かに中学受験塾で下位クラスにいると「お客さん」にされてしまうといわれることがあります。おそらく中学受験を題材にした人気漫画の影響もあるのでしょう。
中学受験塾の下位クラスはお客さん。これは本当のことなのでしょうか。
結論を先に書くと、筆者は下位クラスの子どもたちを「お客さん」だと思ったことはありません。
「中学受験塾の下位クラスはお客さん」ってどういう意味?
塾はお金を受け取って勉強を教えるところ。本来、塾にとって通ってくれるお子さんはみんな「お客様」のはずです。それなのに「下位クラスはお客さん」とはどういう意味なのでしょうか。
塾がアピールしたいのは「合格実績」です。また、中学受験生の親御さんも塾の合格実績には注目するものです。こうした事情から、首都圏の中学受験塾であれば以下のような中学校に多くの合格者を出すことが重要だと考えられています。
- 男子…開成、筑駒、麻布、駒東、武蔵、慶応普通部、聖光、栄光、浅野
- 女子…桜蔭、女子学院、雙葉、豊島岡、フェリス
- 共学…渋渋(渋谷教育学園渋谷)、渋幕(渋谷教育学園幕張)、慶応中等部、慶応湘南藤沢(SFC)広尾、市川、東邦
たとえば、開成中学の合格者が「99人」なのと「100人」なのとでは印象が違います。また難関校では難易度の高い問題が出題される傾向があるため、力のある講師が上位クラスを担当することで一人でも多くの合格者を出そうとするのです。
これに対して、下位クラスの子どもたちが合格するのは、塾にとっては宣伝できる実績になりそうにない中学校。合格者が「99人」よりは「100人」のほうがいいに決まっていますが、上位校ほどのインパクトはありません。また、こうした中学校では比較的易しい問題が出る傾向があるため、担当講師にさほど気を遣う必要はありません。(もちろん、力のある講師が担当している例もたくさんあります)
そうだとは言え、下位クラスの子たちも高額の授業料を支払っています。
こうした事実から、一般的に「下位クラスの子は授業を受けてはいるし、それに対してのお金も払っている。でも、さほど大切にはされず、塾の利益に貢献しているだけの状態」という意味で「下位クラスの子はお客さん」といわれることがあるわけです。
下位クラスの子どもは本当に「お客さん」なの?
「中学受験塾の下位クラスはお客さん」
記事を書いていても嫌な言葉です。本当に下位クラスの子どもは「お客さん」なのでしょうか。
断言します。
そんなことはありません。
筆者はこれまで偏差値80を超える子が所属する上位クラスから偏差値1ケタの子もいる下位クラスまで担当してきました。その経験のなかで下位クラスのお子さんを単なる「お客さん」だと思ったことは1度もありません。
「中学受験塾の下位クラスはお客さん」というのは、中学受験塾の現場を知らない人が勝手に言っていることです。
現場で教える講師は、トップ校の合格実績ばかりを考えているわけではありません。実際は自分の目の前にいる子どもと真剣に向き合っています。
「どうにかこの考え方を理解してもらいたい」
「なんとか志望校に合格してもらいたい」
「この子にとっていい中学受験にしてもらいたい」
こんな気持ちを持って一所懸命に授業をしているのです。
「中学受験塾の下位クラスはお客さん」という言葉がひとり歩きしているようですが、現場で働く講師は上位クラスでも下位クラスでも懸命に子どもと接しています。
上位クラスか下位クラスかが問題なのではない
私が中学受験塾に勤めていたころのことを振り返ってみます。
塾は複数のお子さんがいる場所です。最低でも10名程度、塾によっては25~30人程度ということもあります。これに対して担当講師は1人。すべてのお子さんを平等にみることはなかなかできません。この点は素直に認めなければいけないと思っています。
もちろん「私は全員を平等に見ている!」と胸を張って言える先生もいるかもしれませんが、実際には難しいものです。同じように考える先生は少なくないのではないでしょうか。
その結果、集団指導塾ではよくあることですが、講師はだんだんと以下のようなお子さんに力を割くようになります。
- やる気はあって宿題もきちんとやっているのになかなか伸びないお子さん
- 優秀でまだまだ伸びていきそうなお子さん
一方、以下のようなお子さんにはなかなか力がまわらなくなっていきます。
- やる気がなく宿題をきちんとやらないお子さん
- 「大変元気なお子様」で授業の妨げになるようなお子さん
端的に言えば、成績や偏差値にかかわらずやる気がある子や優秀な子には力を入れる一方で、やる気のない子や授業の妨げになる子のことは放っておくようになるのです。
これはもちろん講師個人の性格によっても異なるので一概には言えません。やる気が感じられない子をかわいく思い、かなりの力を割いている講師は実際にいます。
でも、こうした講師も経験を重ねるうちに、「やる気のない子に力を使っているせいで、やる気のある子たちに力を使えないのはよくないのでは? やる気のある子たちに失礼なのでは?」と考えるようになります。こうして講師たちは成績に関係なくやる気のある子に、自分の情熱を傾けていくことになるわけです。

講師のこうした状況の是非について、ここで問うことはしません。また、筆者自身も「成績や偏差値には関係なく、やる気のある子やがんばる子に一所懸命教えたい」と思っています。
こう考えると上位クラスか下位クラスかが問題なのではなく、やる気の有無が問題なのだとわかるのではないでしょうか。
まとめ
- 「中学受験塾の下位クラスはお客さん」はウソ。正しくは「やる気のない子、授業の妨げになる子はお客さん」。
- 現場の講師は上位クラスか下位クラスかにかかわらず、やる気のある子に情熱を傾ける。