中学受験塾の授業中の様子をイメージしてみてください。
お子さんたちがノートを取りながら講師の説明を静かに聞いている様子を思い浮かべた方……残念ながら不正解です。
このイメージは大学受験予備校の教室の様子。中学受験塾は親御さんたちの想像以上にうるさい場所です。これは進学実績でトップを独走するあの塾でも、最古参のあの塾でもあまり変わりません。特に最上位クラスはどうしても騒がしくなりがちです。
「え、一番レベルの高いクラスでもうるさいの?」と思うかもしれませんね。どうしてそんなことになるのでしょうか。
中学受験塾の上位クラスがうるさい理由
勉強ができるクラスほど講師の話を真剣な表情で深く考え、黙々と授業を受けているイメージがあります。でも実際の教室はそんなイメージとは正反対。なぜ中学受験塾の上位クラスは騒がしくなりがちなのでしょうか。
単純に議論や質問が活発だから
上位クラスには「自分の考えや意見を言いたい」という欲求を持っている子が多くいます。みんなの前に立つような改まった機会には自分の意見を言うのが苦手な子でも、自由に意見を言える場では頻繁に発言するものです。
中学受験塾はまさに自由に発言できる場。塾にもよりますが発表するときにわざわざ立つ必要もありませんし、手を挙げることさえ不要です。
そのため、特に上位クラスでは解説中の議論や質問が活発になります。結果として教室が騒がしくなる傾向にあるわけです。特に算数以外の科目――国語や社会、理科ではこういったことが起こりやすいように思います。
活発な議論から話を脇道にそらしたい子がいるから
中学受験塾では子どもたちが自由に発言できるのが特徴の一つです。ただ、これがよくない方向に作用することがあります。
中学受験生は小学生です。そしていわゆる“大変元気なお子さん”はとにかくふざけて楽しくやりたくなるもの。教室にそういう子が複数いると授業内容に無関係な発言が連続して飛び交うことになるため、どうしても騒がしくなるのです。
頭の回転がはやく、精神的におませな子がいるから
上位クラスには頭の回転がはやく、精神的に“おませな子”が多いものです。当然、講師の言葉尻を捉えて茶化そうとしたり、揚げ足を取ろうとしたりする子が出てきます。こういう子はギャグとしての発言が多いため、まわりの生徒も思わず笑ってしまいます。その結果、教室全体が騒がしくなってしまうのです。
単純に成績がいいから
上位クラスには成績のいい子がそろっています。そのなかには「どうせわかっていることだし、聞かなくてもいいか」と考えてしまい、真剣に取り組まなくなってしまう子がいるのです。
「そんなに簡単な問題をやるほうが悪いのでは?」と思うかもしれませんね。でも、そうはいきません。教室にはどんなに少なくとも10名以上の子どもがいます。仮に同じ問題をやって正解する子が5名、不正解の子が5名だとしたら、正解しなかった子のために解説しないわけにはいかないのです。
また、まずは難易度の低い問題をやってもらって布石を打ってから、難易度の高い問題をやってもらうという授業構成にすることがあります。
こうした事情から、どうしても難易度の低い問題を扱わなければいけないことがあるのです。
ちなみに「この問題は簡単だから、別に聞いてなくてもいいか」と思う子のなかには、答え合わせをしてみると実はできていなかった……という子が少なからずいます。少し辛辣な言い方で申し訳ないのですが、こういう子は「自分は勉強ができる」という錯覚に陥っているため、自分の力を客観視しなければなりません。中学受験にはこうした“大人の態度”も必要です。
上位クラスにいる子が気をつけたいこと
いま上位クラスにいるお子さん、あるいはこれから上位クラスにいきたいと思っているお子さんに、ぜひ気をつけてほしいことがあります。
「自分は成績がいい」「自分は勉強できる」という慢心は禁物
筆者は4、5年生では上位クラスにいた子が、6年生になるころに中位~下位クラスに落ちていたという例をかなりたくさん見てきました。
こういった子たちに共通しているのは「自分はできる」という慢心です。
いわゆる“地頭”がいいのでさほど真剣に授業に参加していなくても、ある程度の成績を取ることができます。また、そこそこに宿題をこなしていれば、上位クラスにいることができるのです。
ところが、それで通用するのは4、5年生のあいだだけ。どんなに長くても6年生の3月まででしょう。そのあいだ成績下降の芽を直視できず、気づいたときには上位クラスから転落しているのです。
さほど苦労しなくても上位にいられる子は、「成績が落ちてもちょっと勉強すれば、どうせすぐ上位クラスに戻れるから」と思ってしまいがち。その気持ちが成績の下落につながっていきます。
たいして勉強してるように見えないのに、なぜかトップから転落しない子がいます。それはまさに「たいして勉強しているように見えない」だけ。実は信じられないほどの努力を重ねているものです。
筆者は、日ごろから「現代文」の記述問題について解説した本を読んでいる受験生を担当したことがあります。ほかの子が娯楽としてハリーポッターを読んでいるときに、その子は高校生向けの参考書を読んでいるのです。こうした努力が高い得点につながっていたわけですね。
ある時期以降に上位クラスから転落すると再浮上は至難の業
上位クラスから転落した子には、なかなか上位クラスに戻れなくなるという特徴があります。特に5年生後期以降に転落すると、上位に戻れる子は極端に少なくなります。
なぜ5年生後期以降は上位クラスに戻るのが難しくなるのでしょうか。それはこの時期に転落する子には才能(いわゆる“地頭”)に頼って成績をキープしていた子が多いからです。
才能で高い偏差値を取っていた子は、学習内容に積み残しが多いもの。しかし5年生後期以降は学習内容が難しくなり受験勉強もすでに折り返し地点を過ぎているため、取り返すのが困難になるのです。
5年生後期以降に上位から転落すると、再浮上は至難の業。
おどしたいわけでは決してないのですが、講師がなかなか語りたがらない事実です。
6年生になると上位クラスも落ち着いていく
騒がしくなりがちな上位クラスですが、6年生になってしばらくすると少しずつ落ち着いてきます。
その理由は主に2つ。1つは単純に精神年齢がさらに上がるから。特に女子はすさまじいスピードで精神的に成長していき、授業に関係のない話に嫌悪感を示すようになる子もいます。講師の言葉尻をとらえたり、揚げ足を取ろうとしたりする子に対して「いい加減にして、ホントに迷惑だから」という声があがることも。
もう1つは、テストが増え「真剣に勉強しないと大変なことになるのでは?」という感じる子が増えるからです。中学受験塾は残酷なもので、テストのたびに偏差値や合格可能性を数字によって突きつけます。当然、常に高偏差値と80%以上の合格可能性を保っている子はほぼ皆無。上位クラスにいる子ほど志望校と自分のあいだに大きな溝があることに気づき、真剣に取り組むようになっていくのです。
上位クラスがうるさいのは悪いことなの?
ここまで上位クラスが騒がしくなりがちな理由と、上位クラスにいる子に気をつけてほしいことを紹介してきました。
そもそも上位クラスがうるさいのは悪いことなのでしょうか。実は必ずしもそうだとは言い切れません。
先ほどもお伝えしましたが、上位クラスには自分の意見や考えを言いたい子がたくさんいます。こういう子たちの議論がうまくいくと、想像以上にいい意見が出たり内容が深まっていったりすることがあるのです。ですから、上位クラスが騒がしいことは一概に悪いことだとは言い切れません。
そのなかで成績を維持するためには、「自分はできる」という慢心を持たずに努力する姿勢が大切です。
まとめ
- 中学受験塾の上位クラスは騒がしくなりがち
- 上位クラスにいる子は「自分はできる」という慢心しないことが大切
- 5年生の後期以降に転落すると上位クラスに戻るのは難しい
- 6年生になると上位クラスも落ち着いていく