私事ですが、筆者が大手進学塾の講師から家庭教師に転身して4年が経とうとしています(2023年9月現在)。家庭教師になってみると、塾講師時代よりも鮮明にさまざまなことが見えるようになりました。
国語が得意な子が低学年のころにしていたこともその一つです(あるいは、「国語ができるようになる子」と言ってもいいかもしれません)。
入試を本格的に意識しはじめる5、6年生になって、「国語が得意な子」になっているために、低学年の時期をどのように過ごせばよいでしょうか。
低学年の国語の学習で忘れてはいけないこと
国語が得意な子の低学年時代の過ごし方を紹介する前に、大切な前提を紹介します。
お子さんの「楽しい」を大切に
まず大切なのは、お子様に「勉強」という意識を持たせすぎないことです。
「国語の得意な子になってほしい!」というのは、あくまで親御さんをはじめとする周りの大人の願いであって、お子さんにはなかなか伝わりません。ですから、「がんばって勉強するんだぞ!」という姿勢ではなく、「国語を楽しもう!」という姿勢でお子さんと接するよう心掛けてください。
特に低学年の子にとって勉強は「大変なこと」「できればやりたくないこと」です。もちろん、自ら進んで取り組んでくれるお子さんもいるとは思います。しかし、お子さんに「遊び」と「勉強」を二者択一してもらったら、たいていのお子さんは遊びを選ぶでしょう。勉強というのはただでさえそういったポジションにあるものですから、楽しくなければ長続きしません。「遊びの延長にあるもの」というのは言いすぎかもしれませんが、「褒める」「励ます」など工夫してできるだけ楽しく取り組んでいただければと思います。
親御さんがお子さんの学習に参加する
お子さんが楽しみながら学習するためには、親御さんのご協力が不可欠です。
10年以上前になりますが、6年生の生徒さんのお母様から「うちの子は集中力がなくて……。とにかく効率が悪いんです。先生、どうにかしてください」というご相談をうけたことがあります。そこで生徒さんに話を聞いてみると、「私がリビングで勉強しているのに、ママは韓流ドラマ観てるんだもん。気が散って勉強になるわけないじゃん」というのです。(この生徒さんの気持ちはよくわかります)
もっとも、ここまで残念なケースはそう多くはありません。ただ、特に低学年のお子さんであれば親御さん主導で進める意識を持つ必要があります。
ここまでをまとめると「親主導で、でも『勉強するぞ!』という雰囲気を出し過ぎず」ということになります。なかなか難しいとは思うのですが、意識的に楽しい雰囲気を出すなど、ぜひ工夫してみていただければと思います。
言葉を文で伝えてもらう習慣をつける
国語の得意な生徒さんを見ていると、自分の言いたいことを「文レベル」で話す傾向があることがわかります。たとえば、以下のような話し方です。
お母様「はい」
ここでは「ちょうだい」じゃなくて「ください」でしょ! という指摘はせずにお願いします。大切なことは、「お母さん」と呼びかけたあとに「お茶ちょうだい」というように「なにが」ほしいのかはっきり伝えていることです。「だれでもこんなふうに言うのでは?」と思うかもしれません。しかし、このように対象をはっきりさせて話せるのは素晴らしいことなのです。
こういった生徒さんとは、授業中、以下のような会話になる傾向があります。
生徒さん「最初はこんなふうになるって思っていたけど、実際はこうなったからうれしい」
いっぽう、国語が苦手な生徒さんを見ていると、「単語レベル」で話す傾向があります。たとえば、以下のような話し方です。
お母様「(お茶を飲みたいのね、と察して)はい」
こういった親子の関係性を否定するつもりはありません。親子の信頼関係があってこそのものだと思います。ただ、「国語の先生」という立場で見ると、「これでは文を作成する力はつかないよなあ」とも感じてしまいます。
上記のような生徒さんとは、以下のような会話になりがちです。
生徒さん「うれしい」
私「うん、そうだね。どうしてだろうか?」
生徒さん「こんなことがあったから」
私「そうだね。じゃあ、本当はどうなることを予想していたんだろうね」
生徒さん「こんなふうになること」
特に問題のない会話のような気もしますが、お子さんの返答がひと言で終わってしまっている点に注目していただければと思います。あくまで私の推測の域を出ませんが、これは普段から因果関係を整理せず単語レベルで言葉を発し、意味の理解は相手(お母様やお父様)に委ねているから起こることだと考えています。
誤解のないようにお伝えすると、ここに挙げた両者の違いはあくまで傾向に過ぎません。ただ、「文で話せる→文で書ける」という構図はイメージしやすいと思います。
ここまで読んでくださった方のなかには、「うちの子はまさに単語で話すのだけど……」と思ってしまった方がいらっしゃるかもしれません。しかし、まだ低学年です。いまから数年かけて、文レベルで話すようになるよう誘導していくことができます。完璧を目指すのは難しいかもしれませんが、ぜひお母様お父様が導いていってあげてほしいと思います。
ポイントは「誰が(に、を)」「なにを(が、に)」「なぜ?」です。この3つの要素をしっかり入れた文を話せるようになるといいですね。
お子さんの感情やお子さんが経験した事象と言葉を一致させる会話
文で話せるようになることと大きく関係しますが、感情や経験した事象と言葉を一致させることも大切です。
筆者にも5歳になる子がいますが、小さな子は自分がある感情を抱いても、その感情の名前をまだよく知りませんよね。ですから、お母様やお父様にはその感情の名前を教えてあげてほしいなと思います。大切なのは、しっかりと言葉に出して感情の名前を教えることです。
親「ああ、どういったらいいのかわからないんだね、それはもどかしいね」
親「どうして謝ってくれたの」
子「だって、私が悪かったと思ったから」
親「ああ、うしろめたい気持ちになっちゃったんだね」
これぐらいストレートに感情の名前をはっきり教えることで、少しずつ言葉を覚えてもらえます。大人同士では成立しない会話ですが、お子さんに言葉を教えるためと割り切れば成立します。ぜひ長期的な視点で試してみてください。
読み聞かせをする
読み聞かせは、中学受験関係から公文まで本当に多くの先生方が、口をそろえて「大切です」とおっしゃることの一つですね。私も読み聞かせは非常に重要だと思っています。
読み聞かせのポイントについてはやはり多くの先生方が語っていますので、あえてお伝えすることもないかとは思いますが、私なりにまとめたいと思います。
1.お母様やお父様がお子さんと一緒に本を楽しむ
2.お子さんの知らない言葉が出てきたら教えてあげる
3.物語に描かれた心情を一緒に確認する
まず、もっとも重要なのは、お母様やお父様がお子さんと一緒に本を楽しむことです。恥ずかしながら私も経験がありますが、子どもに読み聞かせをするとただ文字を音読しているばかりで、頭は別のことを考えていることがあります。仕事のことやプライベートのことなど、その中身はさまざまでしょう。
このように機械的に読み聞かせしていると、子どもが物語のどこに興味を持っているのかを見逃してしまったり、子どもの質問に対して咄嗟に応えられなくなったりしてしまいます。お子さんはそもそも、お父さんやお母さんと一緒に楽しく本を読みたいのです。これでは子どもに「絵本を読んでもらっても楽しくない」と思われてしまうかもしれません。絵本を読むお母様、お父様がお子さんと一緒になって物語を楽しむといいと思います。
絵本(本)を読み聞かせするなかで、お子さんの知らない言葉が出てきたら教えてあげることも大切です。大人にとっては当たり前に知っている言葉でも、驚くほどお子さんは知らないものですよね。その一つひとつを教えてあげてください。できれば、具体的な使い方と一緒に教えてあげるといいですね。
また、お子さんから「この言葉ってどういう意味?」という質問が出なくても、本当はよくわかっていない言葉があります。少しでも意味がわからないのではないかなと感じたら、「ねえねえ、この言葉ってどういう意味か知っている?」といった問いかけを通して、意味を知っているか確認してみるといいですね。「一応確認してみてよかった!」と思うことはよくあります。
6年生と日々一緒に学習しているとはっきりとわかるのですが、言葉の知識(語彙)不足が原因で想像以上に失点している生徒さんがいます。読解力や表現力についてはついているのに、「読むべき場所に書かれている言葉の意味がわからない」「選択肢に書かれた言葉の意味がわからない」といったことが起こるのです。言葉の知識は一朝一夕で身につくものではありません。幼児さん、低学年のうちからコツコツ学習を続けることが非常に大切です。
もう一つ、大切なことがあります。それは、物語中に描かれた心情を一緒に確認することです。主人公をはじめとした登場人物の心情が表れているところがあったら、一度読むのを止めて、「ここではどんな気持ちだったと思う?」というように聞いてみるといいですね。この積み重ねが、3年生以降の物語文の読解につながっていきます。
読み聞かせのなか何度も心情を聞くことを繰り返すと、肝心の物語を楽しめなくなってしまいます。毎回のように確認するのではなくて、たとえば3~4回の読み聞かせに1回でもいいでしょう。お子さんが読み聞かせを楽しみにできるぐらいの頻度で取り入れてみてください。
漢字・知識系の学習はしっかりと
漢字や知識は、がんばった成果が表れやすいものです。そうだとは言うものの、6年生の入試直前になって慌てて取り組むのは、さすがに機を逃してしまったと言わざるを得ません。低学年のうちから、毎日、毎週、毎月、毎年……身につけるべきものをコツコツしっかり学習していきましょう。
また、一度習った漢字については、必ず漢字で書くようにしましょう。国語の苦手な受験生を見ていると、4年生で習ったはずの漢字を6年生になってもひらがなで書いている……というようなことがよくあります。これでは漢字を覚えるはずがありませんよね。
まだ習っていない漢字についても、書けるのであれば漢字で書くようにしましょう。中学受験で漢字指定されるもののなかには、小学生が国語で習わないものがあります。社会科で出てくる「墾田永年私財法」の「墾」などがこれですね。「習っていないから書かない」ではなくて、「書けるように練習すればいいよね」と思えるようになるとベストです。
小学校で「習っていない漢字を書いてはいけない」と指導されることがあるようですが、私はその考えに明確に反対しています。お子さんたちが自分の知らない漢字をがんばって書けるようになるというのは、本当にすばらしいことだと思います。
まとめ
1.お子さんの「楽しい」を大切に
2.親御さんがお子さんの学習に参加する
3.言葉を文で伝える習慣をつける
4.お子さんの感情やお子さんが経験した事象と言葉を一致させる会話
5.読み聞かせをする
6.漢字・知識系の学習はしっかりと
低学年でやっておきたいことをまとめました。1年生であれば入試まで6年、2年生であれば5年、つまり時間はたっぷりあります。だからこそ、お子さんが嫌にならないようにだけ気を付けながら、じっくりコツコツ国語力を養ってほしいと思います。今回もありがとうございました。