「先生、うちの子は国語が苦手なんです。もっと読書をさせたほうがいいですか?」
「先生、うちの子は読書が大好きなのに、どうして国語ができないのでしょうか?」
こんな質問をいただくことがあります。
こうした質問が出るということは、「読書をすれば国語ができるようになる」と考える方が多いということでしょう。あるいは、そこまで確信がなくても、なんとなくそんな気がしてしまうのかもしれません。
読書をすると国語の成績が上がるのでしょうか。筆者の意見を書くと、「読書をする=国語ができる」ではないと考えています。
ただ、読書に意味がないのではありません。読書によって国語の成績を上げることはできるだろうと考えています。
読書が好きな子は国語の成績がいいのか?
筆者が中学受験塾に入ってからはじめて担当した6年生に、読書が大好きな女の子がいまいた。国語の授業では受験生に音読してもらうことがありますが、彼女は非常になめらかに文章を読んでいたことをはっきり覚えています。
ところが彼女の国語の成績は決してよくありませんでした。物語で「傍線部のときの主人公の気持ちを書きなさい」と問われても、論説文で「傍線部と同じ意味の部分を抜き出しなさい」と問われても、なかなか正解を出せませんでした。
その一方で「普段は読書をしないけれど、国語は得意なほうです」という受験生もいます。
読書はしないけれど国語は得意……。
どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか。
「読書が好き!」なのに、国語が苦手な理由1
読書が好きなのに、国語が苦手な受験生は実際にいます。なぜでしょうか。ここでは物語文が好きな子について紹介します。
「読書が好き!」なのに、国語が苦手な理由1
読書が好きなのに国語の力につながらない受験生は、ストーリーを追うために本を読む傾向があります。ストーリーとは「お話の流れ」のこと。「主人公がこうして、こうなった。そうしたら、別の人が出てきて、こんなふうになった。最後にはこうなって終わった」というような話の筋がストーリーですね。
国語で求められるのは、ストーリーの流れを追うことではありません。もちろん、ストーリーを理解している必要はあります。しかし、もっと大切なのは、感情の流れを読むことです。
物語のなかに出てくるのは実在しない人物ですが、私たちと同じ人間です。そうであれば、その一人ひとりに感情があるはずです。その感情を読み取ることが大切です。
「主人公がこうして、こうなった。このとき、この人物はこういう気持ちになった。だから別の人物が出てきたときにこういう感情になり、最後はこういう感情になって終わった」というように文章を理解することが求められるのです。
そのため、感情の流れを追う読み方をしない限り、読書が国語の成績につながっていかないのです。
本来、物語とは感情の流れを追っていくものです。これは本に限ったことではなく、映画やドラマを見るとき大人は無意識にそうしていますね。自然と感情を追いながら本を読めるようになれば、お子さんの読書は大人の読書に近づきます。
「読書が好き!」なのに、国語が苦手な理由2
読書が好きなのに国語の成績が上がっていかない受験生は、比喩などの表現技法がよくわからなくても無視して先に進んでしまうということがあります。
表現技法は小説や物語に読者を引きこむために、あるいはわかりやすく説明するために使用されるものです。これが「リンゴのようなほっぺた」のような簡単なものなら考えるまでもなく理解できるのですが、なかには難しいものもあります。
単なる読書であれば、「なんだかよくわからない比喩が出てきたけど、まあ、いっか」と考えて読み飛ばしてしまっても問題はありません。しかし、国語では比喩などの表現を正確に把握することが求められます。
国語の力を伸ばすということを考えると、「この表現ってどういうこと?」と考える必要があるのですね。
読書は読書。
国語は国語。
「読書」と「国語」は基本的には別物だと考えるのがいいと思います。
それでは中学受験生にとって読書は無意味なのでしょうか。当然のことながら、そんなことはありません。読書を国語の力につなげていくことは充分できます。
意味のある読書にするには?
読書を国語の成績向上につなげていくためにはどうすればいいのでしょうか。先ほどお伝えした読書と国語の違いを踏まえれば、わかってきますね。
普段の読書でもストーリーではなく、可能な限り感情を追うように意識することが大切です。
読書が好きな子のなかには、とにかく先に進みたくてどんどん読み飛ばしてしまう子もいます。速く読めばそれだけたくさんの物語に出会えるわけですから、その気持ちはわからなくもありません。その気持ちをぐっとこらえて、「この人物はここでどんな気持ちだったんだろう……?」と立ち止まることが必要です。
また、わかりづらい表現が出てきたときも、「ん? これはどういう意味だろう?」と立ち止まって考えるといいですね。
こうしたことができるようになると、「ただの読書」が「国語的な読書」に変わっていきます。
文章の読み方だけでなく、言葉の知識についても意識できるとさらにいいですね。読書をしていると、必ずわからない言葉が出てきます。こうしたときに、とりあえず読み飛ばしてしまうのか、電子辞書でもインターネットでもいいから調べてみようと考えるのかで、国語の力は変わってきます。いちいち調べるのは面倒かもしれませんが、その蓄積が国語の基礎力を強固なものにしていくのですね。
読書で論説文を読ませる必要はある?
読書で論説文を読ませる必要はあるのでしょうか。
筆者は「ほかの先生から新書を読むといいと聞いたのですが、どれを読ませればいいでそうか」という質問を受けたことがあります。新書と言えば、論説文が多いことでも知られていますね。
そのお子さんは物語を読むのは好きでも、説明的な文章を読むのは苦手。そういった子に新書を読ませてもなにも頭に残らないのは目に見えています。論説文中学受験によく出る文章は確かに存在しますが、無理に読ませるのは意味がありません。そうであれば、その時間を使って算数など苦手科目を学習するほうが効率的だというのが結論です。
お子さん自身が望んでいるときに限って、「こういう本を読んでみたけど、おもしろかったよ。どう?」というようにすすめてみてはいかがでしょうか。
中学受験の定番作家の先生方
最後に中学受験に定番の先生方を紹介します。入試本番で「1度読んだことがある文章だ!」となれば、それだけで心が落ち着くものです。読んでみたいと望んでいる受験生であれば、読んでもらうといいですね。「入試に出やすい」という視点で選んでいますが、筆者の好みも少なからず反映されていることをご了承ください笑(順不同)
・重松清 先生
作品:「小学五年生」、「きみの友だち」、「きよしこ」、「エイジ」、「卒業ホームラン」
・あさのあつこ 先生
作品:「バッテリー」、「13歳のシーズン」、「The MANZAI」
・森絵都 先生
作品:「カラフル」、「ブレノワール」、「クラスメイツ」、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」、「永遠の出口」、「DIVE」、
・草野たき 先生
作品:「りぼん」、「反撃」、「グッドジョブガールズ」、「ハッピーノート」、「教室の祭り」、「ハーフ」
・椰月美智子 先生
作品:「しずかな日々」、「14歳の水平線」
・宮下奈都 先生
作品:「よろこびの歌」、「羊と鋼の森」、「遠くの声に耳を澄ませて」
・朝比奈あすか 先生
作品:「人間タワー」、「君たちは今が世界」
・魚住直子 先生
作品:「シリカゲルじゃなくて優しいなら」、「べっぴんさん」
・瀬尾まいこ 先生
作品:「幸福な食卓」、「あと少し、もう少し」、「そして、バトンは渡された」
・豊島ミホ 先生
作品:「夜の朝顔」、「檸檬のころ」
・浅田次郎 先生
代表作:「霞町物語」、「天国までの百マイル」、
・吉行淳之介 先生
作品:「子どもの領分」
・木皿泉 先生
作品:「さざなみの夜」
・辻村深月 先生
作品:「かがみの孤独」
説明的文章や論説文については、お子さんが生活のなかで読むものとしては無理があると考えているため割愛します。もし読めるようであれば、五木寛之先生、鷲田清一先生、茂木健一郎先生、辻真一先生、榎本博明先生などを読んでおくといいのではないでしょうか。
内容の関連したInstagram
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まとめ
・読書を国語に活かすためには、物語の流れではなく感情の流れを読むことが大切。
・比喩などの表現技法も意識すると国語に活きてくる。
・本を読みたがらない子に「これを読みなさい」と読ませるのは時間の無駄。その時間を使って算数など別の科目を学習するほうが効率的。