家庭教師としてさまざまな受験生に接していると、本文に線を引かずに問題を解いているお子さんに会うことはよくあります。テキストも模試の問題用紙も真っ白なので、受験生がなにを考えながら読み進めたのかが見えてこない本文が残っているわけです。これではなかなか成績は伸びません。
国語の家庭教師や塾講師の多くが、「本文に線を引きましょう」とお話しします。塾によってはこういったアドバイスをしないこともあるようですが、おそらくほとんどの受験生が一度は言われたことがあるのではないでしょうか。
ただ、本文に線を引かない受験生の話を聞いてみると「どこに線を引いていいのかわからない」と返ってくることがあります。確かに私の経験からも「ここに線を引くんだよ」とまとめて教えている講師を見たことは多くありません。受験生が「『線を引きましょう』と言われても、どうすればいいかわからないよ」と感じてしまうのは当然と言えるでしょう。
この記事では論説文や説明文への線の引き方を解説します。物語文については別の記事がありますので、ご一読ください。
なぜ線を引く必要があるの?
「線の引き方」の話に進む前に、「そもそもなぜ線を引く必要があるのか」から考えてみましょう。
私を含めて国語の講師たちは「線を引きましょう、線を引きましょう」と、当然のように言います。しかし、もちろん「ただ線を引いてほしいだけ」ではありません。目的は線を引くことによるメリットです。
線を引くことのメリット1 大切なところを意識できる
説明的文章(論説文や説明文)に線を引かずに読むとどうなるでしょうか。
比較的簡単な文章ならスーっと流すように読み進め、どこが大切なのかわからなくなってしまいます。一方、難しい文章では「なんだか難しくてよくわからないな」と思いながらも整理せずにとにかく最後まで読み進め、結局なにが言いたいのかわからないまま本文を「読んだ」ことになってしまいます。
こうしたことを避けるのが、本文に線を引きながら読む狙いです。
線を引けば「これが筆者の言いたいことなんだな」「こういう理由で、筆者はこういうことを言っているんだな」「このあたりは難しいけど……あ、こういう理屈の流れなんだな」と確認しながら読み進めることができます。その結果、読み終わったあとに本文の内容がざっくり頭のなかに入っている状態になるのです。
線を引くことのメリット2 問題を解きやすくなる
線を引きながら読むということは、本文を整理しながら読むということです。詳しくはこのあと説明していきますが、ぜひ線を引いておきたい(チェックを入れておきたい)ポイントがあります。そのポイントに線を引いて意識しておくと、問題を解きやすくなるのです。
たとえば、AとBを比較する形で論理が展開する文章が出たとしましょう。このとき、本文を読みながら「AとBが対比で書かれいてるな。なるほどAの特徴はこうで、Bの特徴はこうなのだな」と意識していたとします。そのあとに「Aの特徴についてまとめなさい」という設問があったら、「Aについては、あのあたりに書いてあったな」とすぐに思い出すことができます。しかも、本文には自分が引いておいた線が残っているので、「ああ、そうそうこのあたりに書かれていたんだった」と視覚的に確認することができます。その結果、問題を解きやすくなるのです。
「線を引く=大切なところを意識する、問題を解きやすくする」
こんなイメージを持っておいてください。
それでは具体的に、本文のどのようなところに線を引けばいいのでしょうか?
筆者の主張・言いたいことが書かれているところ
論説文でもっとも重要なのは、筆者の主張や言いたいことです。論説文は基本的に、自分の意見を主張するために書かれます。筆者の主張や言いたいことが出てきたら、「ふむふむ、これが筆者の主張なのだな」と意識しながら読むようにしましょう。では、筆者の意見はどういうところに書かれているでしょうか。
本文の最後
日本語の文章は、最初に話題を振って、最後に筆者が意見を主張する形で書かれています。本文の最後は特に意識して読みたいですね。
この点はビジネスで求められる文章とはやや異なる場合があるので、お父様やお母様がお子様に国語を教える場合には、注意が必要です。
まとめの表現のなか
筆者の意見がまとめ表現のなかに書かれていることも多くあります。論説文や説明文は基本的に「抽象的表現→具体的表現→抽象的表現」というセットの繰り返しで書かれているものです。この具体例をまとめる表現のなかに、筆者の意見が書かれていることがあります。
【まとめ表現の例】
指示語を含む表現
- このように
- こうした
- こう考えてみると など
言い換えやまとめの接続表現
- つまり
- すなわち
- 要するに など
(「つまり」「すなわち」「要するに」は3つセットで覚えておきたい)
明らかに主張を表す表現
明らかに主張を示す表現もあります。非常にわかりやすいので、少し意識すればすぐに気付けるようになるでしょう。
【主張を表す言葉の例】
- ~すべきである
- ~しなければならない
- ~が重要だ
- ~が大切だ
逆説のあと
論説文は、筆者が意見を主張するために書かれるものです。そのために「一般論を否定→筆者の意見」の順で書かれることがよくあります。「一般的には~と言われています。しかし、私は……だと思うのです」という形ですね。ですから、筆者の意見が逆説のあとに書かれることがよくあります。
【逆説の言葉の例】
- しかし
- だが
- けれども など
筆者の主張や言いたいことの理由
論説文は筆者の主張や言いたいことを述べるために書かれるものです。ただ、何の理由もなく自分の言いたいことだけを声高に主張しても、誰も耳を傾けてくれません。
たとえば学級会で、遠足に行く場所を決める話し合いがあったとします。そのとき同級生が「理由なんかないけど、キッザニアがいいんだよ!」と主張してもしっかり聞く気になりませんよね。なにかを主張するときには「自分はキッザニアがいいと思う。なぜなら、さまざまな職業を経験できて楽しいからだ。将来的に就いてみたい職業が見つかるかもしれない」といったように理由とセットで主張する必要があります。(ここまで考えている小学生はなかなかいないかもしれませんが)
論説文も同じです。筆者の主張には必ず理由があります。この意識をしっかり持っておくといいでね。
【理由を表す言葉の例】
- だから
- したがって
- ですから
- そこで など
すべてではありませんが、こういった言葉の前に理由が書かれていることがあります。
文章のなかでなにかが端的に書かれているところ
文章のなかでなにかが端的に書かれているところがあります。基本的な形は「AはBです」。このようにはっきりとなにかが書かれているところは、論理展開上のポイントになることがあります。たとえば、以下のような文です。
質問の仕方で相手の答えを左右できるというのは、人間心理としてよくある事実です。
(多湖輝「しつけの知恵――手遅れにならないための100の必須講座—」海竜社)
文章はこのあと、子どものしつけをするときにどういう質問をするべきなのかという内容に進んでいきます。この文を読んだときに「たとえば、どういう質問がよくて、どういう質問が悪いんだろう?」と考えられれば、その後の文章を理解しやすくなるのです。
また「AはBです」という表現で、文章中の言葉を定義することもあります。以下の文は浦和明の星女子中学で2018年(第1回)に取り上げられた文章です。
一般にハンデとは、参加者間の能力差をならすために行われる操作です。
(伊藤亜紗「目の見えないアスリートの身体論 なぜ視覚なしでプレイできるのか」)
このように文中でなにかを定義する表現が出てきたら、それが本文読解のポイントになっている可能性があります。このあと文章は「障害者のための配慮はハンデではなく、スポーツの制限(ルール)の一つであると考えればよい」という旨の展開になっていきます。
この文章の理屈を理解するためには、一般的に「ハンデ」がどういう意味で使われているかを理解しなければなりません。「AはBです」といった表現で言葉の意味が定義されていたら、「この言葉はこの文章ではこういう意味なのだな、ふむふむ……」と意識的に理解するようにしましょう。
ちなみに、浦和明の星で2018年(第1回)大問1問2では一般的に「ハンデ」がどういう意味の言葉であるかを答える問題が出されました。この問題は、先ほどの「一般にハンデとは、参加者間の能力差をならすために行われる操作です」と書かれた段落を丁寧に読んでいけば解答できることになります。
個人的な感想ですが、本文中のポイントとなる言葉をしっかり設問にするところは「さすがの良問!」と感嘆せずにはいられません。。
「話題」と「答え」
話題には主に2種類あります。まずは文章全体を通しての話題です。「この文章ではこれについて書きますよ」と読者に示します。読み始めてすぐにわかることもあるのですが、冒頭から具体例が続いて話題が少し後に示されることもあるので注意するといいですね。
また、1つめの話題について説明する過程で新たに出す話題もあります。この場合は「どういう話・理屈の流れでこの話題が出されたんだった?」と確認しながら読み進めるといいですね。
【話題を示す言葉の例】
- ~だろうか
- ~なのでしょうか など
このように、話題はしばしば読者への問いかけの形で示されます。
塾で「問いかけには注意しようね」と教わる受験生はたくさんいます。しかし、よく話を聞いてみると「問いかけに注意しなければいけないのはなぜなのか」を理解していない子もかなりたくさんいます。「問いかけ=話題の提起」だと意識しておくといいですね。
さて、話題があったら答えがあります。
たとえば「名探偵コナン」というマンガやアニメをご存じですよね。コナンくんのような謎解きものは基本的に「犯人は誰だろうか?→犯人がわかって解決」という形になっています。つまり「話題→答え」の形になっているのです。
ですから「話題」を見つけたら、必ず「それじゃあ、答えはなにか?」と考えながら読む習慣をつけましょう。
品川女子学院中学が、2020年第2回大問2で以下の文章を出しました。
しかし今もなお、多くの人の心の中に、ロールモデルのような家族団らんのイメージが生き続けているのはなぜなのでしょうか。
(略)
家族団らんが理想の姿のように扱われるのは、高度経済成長期の“古き良き日本の思い出”が作り出したイメージにも感じられます。
(石川伸一『「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』)
この部分の話題は「しかし今もなお、多くの人の心の中に、ロールモデルのような家族団らんのイメージが生き続けているのはなぜなのでしょうか」ですね。そして「家族団らんが理想の姿のように扱われるのは、高度経済成長期の“古き良き日本の思い出”が作り出したイメージにも感じられます」の部分が答えとなっています。
対比(なにかとなにかを比較して、違いを明らかにすること)
「対比」は論説文や説明文の代表的な展開方法です。なにかとなにかを比較することで、わかりやすく説明していくのですね。
【対比の例】
- 日本と外国(国や場所の比較)
- 江戸時代と明治時代(時代や時間の比較)
- モンシロチョウとモンキチョウ(生物の比較)
サレジオ学院中学が2017年A試験大問3でこの文章を出しました。
西洋タンポポと日本タンポポの特徴を比較してみることにしよう。
(稲垣栄洋「植物はなぜ動かないのか」)
典型的な対比の書き方ですね。このあと西洋タンポポと日本タンポポの特徴の違いが説明されます。このように「これから対比で説明しますよ」という旨の説明があったら注意しましょう。
ここまでわかりやすい形の導入がなく対比が書かれることももちろんあります。浅野中学が2020年の入試で以下の文章を出しました。
本が読まれなくなったことは、文明の変化ともいえますが、わかりやすくいえば、テレビや、スマートフォンの持つ手軽なおもしろさに押されてしまったのです。
(安野光雅「かんがえる子ども」)
サレジオ学院で出た文章のようにわかりやすくはありませんが、この一文によって「本」と「テレビやスマートフォン」が対比の構造で説明されていくのだろうとわかります。このあとに続くのは以下の文章です。
テレビや映画は、受け身で見ることができます。
(略)
一方、「本を読む」ということは、文字で書かれた場面や時間の経過を、自分自身でつかんでいくことになります。
(安野光雅「かんがえる子ども」)
この文の場合「一方」という語を読めば「ああ、対比が出てきたな」と気付くことができます。テレビや映画は「受け身(受動的)」で見るもの。一方の本は「自分自身でつかんでいくもの(能動的)」ということですね。
こうした対比が出てきたら必ずチェックを入れて、情報を整理しながら読むようにしましょう。
類似(なにかとなにかの共通点)
「類似」は対比とは逆に、なにかとなにかの共通点のことです。
【類似の書き方の例】
- ~も同じ
- ~と同様で~
- ~も似ている など
このような書き方が出てきたら要注意。かなりの頻度で「AとBはどのような点で同じなのですか」といった出題があります。
列挙(なにかを数えて並べること)
列挙を表す言葉も非常に大切です。
1つの話題に対していくつのものが説明されているかがわかるだけで文章を整理しやすくなりますし、どこになにが書かれているかがわかるので設問にも答えやすくなります。簡単な記述問題であれば、列挙の言葉のあとをまとめるだけでほとんど解答が完成することもあるほどです。
【列挙を表す言葉の例】
- まず…
- 次に…
- また…
- そして…
- さらに…
- そのうえ…
もっとわかりやすいものに、以下のような書き方もあります。
- 第一に…
- 第二に…
- 第三に…
淑徳与野中学が2021年第1回入試大問2で次の文章を取り上げました。
本章では、科学・技術の成果や使い方についての二面性を考えてみたいと思います。
その二面性の第一は、科学・技術の直接的な効能(利得)と弊害(損失)です。
(略)
二つ目は、科学・技術の使用形態で、私たちの生活など社会一般に広く使われる民生利用と、戦争に勝利するために使われる軍事利用があります。
(略)
(池内了「なぜ科学を学ぶのか」)
このように「科学・技術の成果や使い方についての二面性」がいくつか列挙されています。列挙が出てきたらチェックを入れて「ふむふむ、1つめの二面性はこれだな。そして、2つの二面性はこれ……」というように意識しながら読むようにしましょう。
まとめ 論説文や説明文の線の引き方
- 筆者の主張・言いたいことが書かれているところ
- 筆者の主張や言いたいことの理由
- 文章のなかでなにかが端的に書かれているところ
- 「話題」と「答え」
- 対比(なにかとなにかを比較して、違いを明らかにすること)
- 類似(なにかとなにかの共通点)
- 列挙(なにかを数えて並べること)
論説文や説明文の以上のようなところに線を引いて、「ここは大切だな」と意識しながら読み進めてください。
小学4、5年生ぐらいで国語の苦手な子が本文を読む様子を見ていると、具体例に一所懸命線を引いていることがあります。おそらくお子様にとっては具体例や具体的なエピソードにこそおもしろさを感じるからでしょう。
しかし、具体例は筆者が自分の主張につなげるための説明として出すものです。あくまでも単なる説明に過ぎませんので、多くの場合大切なところではありません。「具体例を通して、筆者はなにをいいたいのか」が大切です。
論説文や説明文をしっかり読めるようになると、中学入試だけでなく大学入試でも役に立ちます。ひいては大人になってから資料を読むときにも役立ちますので、いまのうちにしっかり身につけられるといいですね。
受験生のみなさんの読解力が伸びるよう、願っています。