中学受験をするかどうか考えるときに、「中学受験にどんなメリットがあるか? 逆にデメリットはなにか?」と考える人はいると思います。筆者は「中学受験をするほうが絶対にいい!」とは考えていません。ご自身のお子さんにとってどんなメリットやデメリットがあるかを考えてからで遅くないと思っています。では、中学受験にはどんなメリットとデメリットがあるでしょうか。毎年100人以上の受験生を見てきた経験から紹介します。
中学受験 8つのメリット
中学受験生のメリットは、単純に「私立中学に行ける」ということだけではありません。
メリット 自分に最適な学習方法が身につく
筆者が個人的に考える、もっとも大きなメリットは自分に最適な学習方法が身につくことです。言うまでもなく、子どもたちは中学入試を受けるために膨大な時間を勉強に費やします。6年生の後期になると、食事や睡眠、学校といった生活に必要な最低限の時間以外のほぼすべてを勉強に使うほどです。
ただ、長い時間勉強したからと言って、必ずしも結果につながるとは限りません。時には、がんばって勉強したのにもかかわらず合格可能性や偏差値が下がり、辛い思いをすることがあるはずです。こうしたなかで、子どもたちは「どうすれば効率よく勉強し、成績を上げることができるのか?」と自問し、自分なりに試行錯誤します。
その過程で身につくのが、「自分に最適な学習方法」です。
「どのように勉強すれば、自分は内容を理解できるのか」「どのぐらい勉強すればどの程度の成果になるのか」といった自分についての情報は、今後の人生で必ず役に立ちます。それは高校受験や大学受験、就職試験だけのことではありません。仕事に必要な資格取得のために勉強する場面、仕事の資料を読み込む場面など、社会に出てからも役に立つのです。
メリット 人生に必要な「考える力」が身につく
中学入試では、いわゆる思考力を問う問題が増えています。勉強するなかで身につけた知識を使って、問題を解決する力が試されるのです。
ご存じの通り、大人になってから要求されるのはこの問題解決能力です。中学受験をした子どもが社会で活躍する例がたくさんありますが、子どものころからこうした力を身につけてきたからだと考えれば当然のことだと言えます。
メリット 人生ではじめての大きな成功体験となる
中学受験の本質は、子どもたちが目標に向かって一所懸命に努力するということです。もちろん、長い受験勉強の途中でやる気をなくしてしまうことがあるかもしれません。しかし、「ああ、全然がんばらないで入試の日になっちゃったな~」という受験生はいないものです。
中学受験をすることに決めるまでごく普通の小学生として過ごしてきた子どもたちにとって、たった一つの目標に向かって数年単位でがんばった経験はほぼありません。だからこそ、努力した末に「合格」を勝ち取ることができれば、はじめての成功体験となります。中学受験の成功体験は、その後の人生の大きな自信となるでしょう。
メリット 社会の問題に対する関心が強くなる
子どもたちと話していると、彼らが社会のことに対して大人の想像以上に関心を持っていることがわかります。その内容は、日本で起きる事件のほか、貿易摩擦の問題、株や経済などの問題、介護や社会福祉の問題などさまざま。大人よりも深く理解している子がいることに、焦りと恥ずかしさを感じることもあるほどです。
ちなみに、担当した受験生と数年後に偶然再会して驚くことがあります。「いまの仕事を選んだのは中学受験のときに勉強したことがきっかけです」という子(立派な大人ですね)が複数いるのです。いずれも中学受験の勉強をするなかで「これは絶対に解決しなければいけない!」という問題と出会い、そのまま仕事に選んだとのこと。このようなことがあるのは、中学受験のときに社会について深く考える経験があったからではないでしょうか。
メリット 自分が一番行きたい学校を選べる
中学受験をすると、親と子どもがある程度納得したうえで進学できます。イジメっ子がいたり、荒れたりしている公立中学校に進学する必要はありません。さらに、学力さえともなえば、自分が一番行きたい学校に通うことができるのです。
メリット 親子の絆が強くなる
子どもたちが自分だけの力で中学受験をすることは絶対にできません。どうしても親のサポートが必要になります。小学4~6年生と言えば、子どもたちの自我が強くなって反抗期に入りはじめる関係から、時には親子で衝突することもあるでしょう。しかし、子どもは子どもなりに親が協力してくれることに対し感謝しているもの。一般的に3年間といわれる受験勉強期間は長いものですが、その分だけ親子の絆は深まっていきます。
メリット 子どもの自立心が育つ
子どもは受験勉強をするなかで試行錯誤するものです。「この前はこのやり方でダメだったから今度はこのやり方をしてみたらどうだろう?」などの試みは、それが非効率的だったとしても子どもの成長につながります。大人から見ると歯がゆいこともありますが、誰かに頼らず自分で問題を解決しようとする姿勢が身につくのも中学受験のメリットです。
メリット 大学受験までの6年間を比較的のびのび過ごすことができる
最近、私立大学の定員が厳格化された関係で、進学校から有名私立大学に進学するためには、いままでよりもさらに激戦を潜り抜けなければならなくなったといわれています。一方、大学附属の中学校に進学した場合、中学高校6年間を比較的のびのび過ごすことができます。青春真っ只中の時期に勉強や部活に打ち込んだ経験は大きな財産になるのではないでしょうか。
中学受験 9つのデメリット
中学受験にはデメリットもあります。
デメリット 中学受験に向いていない子に苦痛を与える危険がある
中学受験には向いている子と向いていない子がいます。向いている子であれば、辛い思いをしながらも努力を重ね、合格を勝ち取って入試を終えるでしょう。しかし、向いていない子にとって、受験勉強は苦痛でしかありません。教師の話がさっぱり理解できない、いくら勉強しても成績が上がらない、いつも遊んでばかりいる子になぜか勝てない……。そんな状態のなかで受験勉強をするのは、本当に辛いことだと思います。
ちなみに、中学受験に向いていなかった子が、高校受験や大学受験で成功する例はあります。それにはいくつかの理由が考えられますが、子どもが発達する時期と中学受験の時期がたまたま重ならなかったことがその理由の一つです。このタイプの子は脳が成長した中高生以降の時期に大きく飛躍する可能性があります。
デメリット 子どもが肉体的・精神的に不安定になるケースがある
中学入試を突破するには膨大な時間を勉強に費やさなければなりません。早朝に起きて勉強してから小学校へ。学校から戻るとすぐに塾へ行くという生活をしていると、どうしても体力を消耗します。また、遊びたい気持ちを我慢し続けなければならないため、ストレスが溜まりがちです。当然、精神的に不安定になり、癇癪を起こしたり親子でケンカになったりすることがあります。
デメリット 子どもは親が望んだような結果を出すとは限らない
中学受験には、さまざまなメリットがあります。親はそのメリットに魅力を感じて子どもに中学受験をさせようと考えるわけです。しかし、子どもが親の期待通りの結果を出してくれるとは限りません。中学受験をさせると決めるのであれば、子どもが期待以下の結果しか出せなかったときに、子どもはもちろんのこと親が耐えられるかどうかを考えておかなければなりません。
デメリット 小学生なのに友だちと遊ぶ時間が少なくなる
中学受験をしない小学生は友だちと遊ぶ毎日を過ごしています。昔の小学生のように公園で缶けりをすることはないかもしれませんが、ゲームなどを一緒にやりながら交流を深めているのです。
一方、中学受験生に友だちと遊ぶ時間はありません。通塾のたびに課せられる宿題に追われて余裕がないからです。もし「小学生は遊ぶことが大切」と考えるのであれば、中学受験にはデメリットしかありません。
デメリット 親子ゲンカが頻発する危険がある
受験勉強をしているとどうしても親子ゲンカが起きてしまいます。小学6年生と言えば自我が強くなる時期。「宿題はやったの!?」「またこの問題できていないじゃない!」「このままじゃ入試に間に合わないよ!」などと言われると、それがいくら正しくても子どもはイライラしてしまうものです。一方、親は子ども自分で考えて勉強する姿を危なっかしく思い、ついつい口を出してしまいます。これではケンガが起きても仕方ありません。
子どもたちの話を聞いていると、親子ケンカが頻発する家庭は想像以上に多いようです。最終的には入試を通して親子の絆が強くなる傾向がありますが、一歩間違うと家庭に暗い影を落とすことになってしまいます。
デメリット 「勉強できる人が偉い」という間違った価値観になる危険がある
受験生は数字によって判断されてしまいます。そういう意味では営業職のサラリーマンと似ていると言えるでしょう。子どもがそういう環境のなかに身を置くと、どうしても「勉強ができる人、つまり偏差値が高い人が偉い」という意識になりがちです。言うまでもなく、「勉強ができること=人間性が優れている」ということではありません。子どもがこうした歪んだ価値観を持たないよう、親が注意していく必要があります。
デメリット 通塾に高額の費用がかかる
塾や家庭教師の先生に教えてもらわずに中学受験を突破することはできません。稀に両親が勉強を教えて志望校に合格する子がいるそうですが、例外中の例外と言って差し支えないでしょう。中学入試のプロに指導を頼むのが現実的です。
一般的に中学受験塾の費用は、小学4年生~小学6年生までの3年間で200万円~250万円といわれています。子どもの教育のためではあります、決して安くはない費用だと思います。
デメリット 進学した後も高額の授業料がかかる
中学入試を突破し、晴れて志望校へ進学! 子どもはこれで解放されますが、親はそうはいきません。子どもが私立中学に進学すれば、それ相応の授業料がかかります。一般的には6年間で600万円~800万円を見積もっておけばいいでしょう。中学受験塾の費用と合わせると1000万円を超える計算。もしも兄弟姉妹がいれば、さらに金額は大きくなります。
デメリット 6年間同じ学校に通うことになるため、合わなかったときは退学する必要がある
中学受験をして進学した学校には、一部の国立中学校を除き6年間通うことになります。ただ、実際に進学してみると、思っていた学校ではなかったというのはよくあることです。「なんとなく合わないな」と思いながらも通学を続けられればいいのですが、そうでない場合は退学するしかなくなってしまいます。結果的に、何のための中学受験だったのかわからなくなってしまうかもしれません。子どもに中学受験をさせるなら、進学後のリスクまで考えておきましょう。
まとめ
中学受験のメリットとデメリットを箇条書きでまとめます。
中学受験のメリット
- 人生に必要な「考える力」が身につく
- 人生ではじめての大きな成功体験となる
- 社会の問題に対する関心が強くなる
- 自分が一番行きたい学校を選べる
- 親子の絆が強くなる
- 子どもの自立心が育つ
- 大学受験までの6年間を比較的のびのび過ごすことができる
中学受験のデメリット
- 中学受験に向いていない子に苦痛を与える危険がある
- 子どもが肉体的・精神的に不安定になるケースがある
- 子どもは親が望んだような結果を出すとは限らない
- 小学生なのに友だちと遊ぶ時間が少なくなる
- 親子ゲンカが頻発する危険がある
- 「勉強できる人が偉い」という間違った価値観になる危険がある
- 通塾に高額の費用がかかる
- 進学後も高額の授業料がかかる
- 6年間同じ学校に通うことになるため、合わなかったときは退学する必要がある
中学受験にはメリットもデメリットもあります。「子どもに合った教育を受けさせたい」「大学受験に有利な学校に行かせたい」などと考えると、いいことばかりに目が向きがちです。メリットとデメリットの両方に目を向けたうえで、本当に中学受験をさせるのか検討するといいでしょう。