先日、女性の友人からこんな相談を受けました。
友人「中学受験させるって親のエゴって言われたりすることがあるでしょ? それ、どう思う?」
「中学受験は親のエゴ」
現在お子さんと一緒に中学受験の勉強に取り組んでいる親御さんや、中学受験させようかなと検討している親御さんにとってこれほどショッキングな言葉はありません。
しかし……。
筆者は断言します。中学受験は親のエゴではありません。今回は筆者がこう言い切る理由を紹介します。
「中学受験は親のエゴ」とは思えない
エゴとはそもそも「自己」「自我」の意味。しかし、「中学受験は親のエゴ」という言葉の場合は「エゴイスト」の意味だと考えるべきでしょう。「エゴイスト」は「利己主義」の意味です。
つまり「中学受験は親のエゴ」とは「子どもに中学受験をさせる親は利己主義」という意味になります。言い換えれば「親に都合がいいから子どもに中学受験をさせるのだ」ということです。
本当にそうでしょうか。本当に親御さんはご自分に利益があるからお子さんに中学受験をさせるのでしょうか。
筆者は決してないそんなことはないと感じるのです。
確かにお父様やお母様のなかには「××中学以下の学校には行かせません」と宣言し、絶望的な入試スケジュールに子どもを突入させる方がいます。そんな光景を見ると「この子の親は子どもを偏差値××以上の中学校に通わせたいだけで、本当は子どものことを考えてはいないんだな。受験勉強に費やしたこの子の数年間はなんだったのだろう……」といった気持ちになるものです。
でも、こうした親御さんはごく一部。筆者は毎年たくさんの親御さんと接していますが、本当にお子さんの将来のことを考えている方がほとんどです。
中学受験生の親は子どもに願っていること
お子さんに中学受験をさせる親御さんは、そもそもなにを願っているのでしょうか。さまざまありますが以下のようなことなのではないでしょうか。
- 単純に高い学力を身につけてほしい。
- 中学受験の先にある大学受験で有利になる進学校に行ってほしい
- 早慶をはじめとする有名大学の附属校に行って中学高校は伸び伸び過ごしてほしい
- 荒れている地元の公立中学ではなく、子どもが楽しく過ごせる中学校に進学してほしい
- 子どもの性格に合いそうな学校に進学してほしい
- 中学受験を通じて人間的に成長してほしい
中学受験生の親御さんのなかに、ここに挙げたものがまったく的はずれという方はいないのではないでしょうか。他にもあると思いますが、おおむねこのようなことを願っているのだと思います。
こうした願いは「親のエゴ」なのでしょうか。言うまでもなく違いますよね。
親が子どもの学力向上を願うのが当然である理由
筆者は「学力が上がること=選択肢が増えること」だと考えています。
中学受験を受ける小学生にはまだ就きたい職業はないかもしれません。しかし、高校生になるころには自分の将来のことを考える機会があるはず。そのときに高い学力があれば医師や弁護士といった選択をすることも充分可能です。一方、学力が低ければその選択をすること自体が現実的でなくなってしまいます。
医師や弁護士でなくても同じです。先日トヨタの豊田章男社長が「終身雇用は難しい」という旨の発言をしたことが大きな話題となりました。しかし、スポーツや芸能、芸術分野に秀でた才能がない人が経済的に豊かで安定した生活をするには、いわゆる大企業に入ることがまだまだ有効であると思われます。
その大企業がどのような人を採用するかと言えば、いわゆる一流大学を卒業した学生です。一部の噂によれば、新卒採用のWebサイトには「学歴フィルター」と呼ばれる選別機能があり、一定レベルに達しない学生はエントリーすらできなくなっているといいます。
日本はまだまだ学歴社会なのです。
こうした状況であれば、親御さんがお子さんに一流大学に行ってほしいと願うのは当たり前だと思います。
子どもの性格に合った学校への進学は中学受験の大きなメリット
公立中学と私立中学の違いを考えてみます。
公立中学は「たまたま同じ年に」「たまたま同じ地域で」生まれた子どもたちが通う場所です。学区というものに縛られており、基本的には指定された中学校へ進学しなければなりません。校風がお子さんに合っているかどうかは関係ありませんよね。
一方の私立中学は合格さえできれば好きなところに通うことができます。自宅から1時間離れていてもいいですし、親元を離れて寮に入ってもいいのです。日本にはまさに無数の私立中学があるので、お子さんに合った校風の学校に進学することができます。これは中学受験の大きなメリット。進学したあとに校風が合わず辛い思いをしてしまった……という危険性を回避することができるのです。
また、中学受験生の親御さんとお話ししていると、「地元の公立が荒れていて……」という声を聞くことがよくあります。私立だから荒れていないという保証はありませんが、荒れているとわかっていてわざわざ公立に進学させる気にはなりませんよね。
健全な学校で楽しく明るく学校生活を送ってほしいというのは、親として当然の願いなのではないでしょうか。
中学受験によって人間的に成長できる
親御さんが考えているのは、もちろん大学や就職のことだけではありません。中学受験の勉強は小学生が平均3年間にわたって続けるものです。そのあいだには嬉しいこともあれば、辛いこともあるでしょう。「こうすればうまく行くんだ!」という達成感、勉強したのに成績が下がる絶望感など、子どもたちはさまざまな経験をします。こうした経験を通して人間的に成長することも願っているのです。
中学受験の勉強自体にも子どもを成長させる効果が期待できます。たとえば国語の問題には非常にいい文章が採用されています。こうした文章を読めば、物事を多面的に見る論理力や他者の気持ちを感じる共感力や推察力が鍛えられるでしょう。小学校という狭い世界ではなく、本当の世界で起きている現象や問題を理解することにもつながります。
先ほどの大手企業が一流大学卒の学生を採用する理由の一つも、おそらくはここにあるのではないでしょうか。さまざまなものに触れて深く考え、問題を解決してきた経験のある学生を、企業は採用したいと考えているのだと思います。
さて、親御さんの願いのどこが「利己主義」だというのでしょうか。
「中学受験は親のエゴ」なんてとんでもない! むしろ逆で、中学受験生の親御さんは人一倍お子さんの幸せを願っているのだと思います。
中学受験生を持つ親御さんに伝えたいこと
中学受験をさせると人に話すと「小学生なのに勉強ばかりでかわいそう」「そんなに勉強させてどうするの?」「小学生は遊ぶのが仕事でしょ」などと言われることが多いようです。特に中学受験が盛んでない地域でこの傾向が強いように感じます。
中学受験生はかわいそうではありません。
中学受験の勉強でさまざまな経験をするなかで自分や他者のことを見つめるだけでなく、世の中で起きていることを多面的に見る力が身につきます。中学受験をしなければこうした機会はなかなかないでしょう。
筆者が中学受験生に勉強を教えることを生業としていて、受験生の裾野を広げたいから言っているのではありません。一人の人間として、そして一人の親として言っているのです。(※筆者にも子どもがいます)
決して手放しで礼賛するわけではありませんが、筆者は中学受験を素晴らしいものだと考えています。毎日のように中学受験生を見ていて、素直に感じていることです。
中学受験生を持つ皆さん、そして中学受験を検討している皆さん。あなたはエゴイストなんかではありません。お子さんの幸せを強く願っている方です。筆者はそう信じています。